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「原晋が名前を呼び上げて…」青学大“箱根駅伝メンバー漏れ”が通告される瞬間「悔しさをぶつけるように…」寮生活の気になる実情は?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNanae Suzuki
posted2025/01/24 11:02
青学大を率いる原晋監督(写真は2025年)
「これで優勝できる実力があると分かったでしょ。いままでは箱根も参加できただけでお祭り騒ぎみたいなものだったけど、勝ちに行く方が楽しいよね?」
全日本が終わって、選手たちは本気で悔しがっていた。優勝を狙えるようになると、人間の意識って変わってくるんだと実感した。入学したころなら、3位できっと喜んでいたに違いない。でも、最後に神野が抜かれたことを選手たちは、「俺があと数秒稼いでいれば」と本気で考えるようになっていたのだ。むしろ、神野が「大六野さんに抜かれたのは実力。自分の力は出し切れたので、良かったと思います」と前向きに捉えていたのが頼もしかった。
主務が聞いた“原晋のつぶやき”
全日本が終われば、コースの下見も本格化する。誰がどの区間を走るのか、おおよそ見当がついてくる。原のそばにいると、自然と監督がどんなプランを持っているのかが耳に入ってくる。
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「3区は渡邉利典とか走ったら、面白そうだよなあ」
意外な言葉だった。渡邉は宮城・東北高校出身の3年生。小椋、久保田といった同級生と比べるとトラックでのスピードはなかったが、ロードになって距離が伸びると力を発揮するタイプだった。ふだんは絵を描くなど芸術家肌の面もある。
ただし、昨今の箱根駅伝では3区が戦略的に重要な区間になっており、エース、もしくは準エース格の選手が走ることが多くなっていた。小椋か久保田が順当。渡邉が走るとは誰も想像していなかった。
高木は原の話を聞き、渡邉とふたりきりになったときに監督のプランを伝えた。
「利典、監督は3区で考えてるみたいだから、そのつもりで準備しといて」
渡邉自身は、粘り強さが求められる復路区間での起用を予想していたらしく、「マジっすか」と驚きを隠さなかったが、それからは練習でも明らかに意識が変化しているのが見て取れた。気持ちが充実しはじめたのだ。練習でも積極的な姿勢が出てきたので、このまま調子を上げていけば、3区を走る可能性が高まるかもしれなかった。言葉によって、意識は変わる。ただ、11月の時点では高木も、まさか渡邉が往路に回るとは想像していなかった。