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「長野(誠)さんの言葉は意識しています。でも、ひとつだけ…」SASUKEのエース“サスケくん”こと森本裕介(33歳)が語った「完全制覇」への想い
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byNanae Suzuki
posted2024/12/25 17:01
SASUKEで2度の完全制覇経験を持ち、番組の大トリを務めることも多い森本裕介。33歳になった「サスケくん」の軌跡とは
行き当たりばったりではなくゴールまでのルートをきちんと分析し、そこに至るまでの力の配分、動き方を考える。そんなクライミングの競技特性から、そうした計画的な思考、動きが身についたのだ。
ついでに言えば、「サスケくん」のあだ名をつけてもらったのもバイト先のクライミングジムでのことだ。それはそのまま番組内での森本の代名詞となっていく。例えば山田のミスターSASUKEのようなキャッチフレーズよりも、サスケくんという愛らしい語感は森本の表情や佇まいによく似合ってるように思える。
久しぶりに出場した2011年の第27回大会、森本はついにファーストステージを突破する。メンタル面でもこれまでとは違う形で臨むことができた。
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「もしかしたらラストチャンスかもと思ってました。ラストになるなら最後は楽しんで笑顔で終わりたいみたいな気持ちもあったので、結構肩の力も抜けてたんですよ。おかげで普段の練習の成果を出すことができました」
もしここで失敗していたら、次のチャンスはいつになっただろう。ひょっとしたらサスケくんの時代は訪れず、SASUKEの歴史も大きく変わっていたかもしれない。
2015年に初の「完全制覇」を達成…モチベーションは?
森本が悲願の完全制覇を達成したのは、大学院生として出場した2015年の第31回大会だ。長野の完全制覇を目撃してから9年。ついに自分がその頂に立った。ただ、鋼鉄の魔城を制した後、森本はすぐに次の目標を見つけていた。
「不思議と1回で満足して燃え尽きることはなかったですね。漆原(裕治)さんが完全制覇を2回していたのでまずはそれに絶対に並びたいと。僕はSASUKEに関してはものすごく負けず嫌いなんで(笑)」
2度目の完全制覇までにはさらに5年を要した。その間にはファーストステージでのリタイアも味わった。早期リタイアを喫すれば、残りの時間は他の選手の応援に回る。そこで森本は気づいたことがあった。
「応援する側の痛みですね」
並走して仲間の動きに声を挙げながら、森本は痛みを感じていた。肉体ではない。心がぎりぎりと絞めつけられるのだ。
「やっぱり、痛みですねえ。そう表現するのが一番だと思います。落ちて池から上がるくらいの間に現実を受け入れないといけない時間がある。もう絶対に戻せない。どんなにそこまで積み上げていても、自分がミスして失敗したこの現実は変えようがない。それを受け入れないといけない瞬間は本当に辛いです」