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アロンソ怒りの「GP2!」発言から苦節9年…名門マクラーレンを26年ぶりタイトル奪還に導いたアンドレア・ステラ代表の艱難辛苦
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2024/12/13 11:01
祝勝会で喜びを分かち合うマクラーレンCEOのザック・ブラウン(左)とチーム代表のアンドレア・ステラ
「ランドはプレッシャーがかかっていたにもかかわらず完璧な週末と完璧なレースを見せ、われわれが彼に与えた簡単ではない戦略に対して非常に冷静に対処した。ランドだけではない。ピットクルーの仕事ぶりも素晴らしかった。タイトルは最後のピットストップにかかっていた。そこで不手際が起きていたら、チャンピオンシップを失う可能性もあった。そんな状況の中で、ピットクルーは今シーズン最高のピットストップを披露してくれたよ」
そのステラにとっても、マクラーレンでのタイトル獲得には特別な思いがあった。ステラがフェルナンド・アロンソとともにフェラーリからマクラーレンに移籍したのは2015年。ホンダを新しいパートナーに迎えた年だった。
「あの年の開幕戦オーストラリアGPのことはいまでも覚えているよ。2台そろってQ1落ちしたわれわれのベストタイムは、ポールポジションから5秒以上遅かった」
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コンマ1秒を競うF1で、1周で5秒はもはや同じカテゴリーではないも同然だった。当時話題となったアロンソの「GP2エンジン」というホンダのパワーユニットを揶揄する言葉は、決して大袈裟な表現ではなかった。
その後、ホンダと袂を分かったマクラーレンはルノーと再出発をはかるが、なかなか低迷から脱出できなかった。気がつけば、ステラはマクラーレンに加入してから今年で10年目となっていた。
チーム力で勝ち取ったタイトル
ノリスがトップでチェッカーフラッグを受け、マクラーレンは98年以来となるコンストラクターズタイトルを獲得。表彰式の後、ガレージで行われた祝勝会で、ステラが真っ先に抱き合って喜びを分かち合った相手は、CEOのザック・ブラウンだった。アラン・プロストやアイルトン・セナとともにマクラーレンを最強軍団にしたロン・デニスが16年限りでチームを離れ、どん底とも思える状況となっていた17年にマクラーレンに加入したブラウン。チーム代表になったステラは、ブラウンとともに何度となくファクトリーを歩いて回った。
「どんなに優秀なチーム代表でもワンマンでチームを強くすることはできない。ファクトリーで働くおよそ1000人の優秀なスタッフたちの力を結集するためにはどうしたらいいのか。私はザックと何度も話し合った」
だれかひとりの力ではなく、チームの叡智を結集して勝ち取った26年ぶり9回目のコンストラクターズタイトルは、過去のどの栄冠とも違う輝きを放っている。