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「母は車を止めて、大号泣しました」“プロレスラーになりたい”田中きずなが家族に告げた日…ケガで生死をさまよい引退した府川唯未と娘の約束
text by
伊藤雅奈子Kanako Ito
photograph byL)本人提供、R)Takuya Sugiyama
posted2024/11/22 11:21
プロレスラー夫婦のあいだに生まれた田中きずな。だからこそ娘は憧れ、母は反対した――。
田中 何回も、「いま言ってみようかな」みたいな気持ちになったことはあったんですけど、言わなくて。でも、お母さんは気づいてたので、「絶対やりたいって言わないでね」って何回も泣きながら、ほんとうに小さいころから泣きながら言われてました。プロレスを観に行った帰りの車とかで、いつも。何回も打ち明けようって思ったことはあったんですけど、やっぱりお母さんの姿や涙が頭から離れなくて、言えなかったですね。栗原さんはその翌月に引退したので(13年8・4後楽園ホール大会)、2試合しか観れてないんですけど、栗原さんがwaveにたくさん出てたイメージがあったのと、お母さんが飯田美花さんに技を伝授するということもあったので、waveをたくさん観に行くようになって。
すれ違っていった母と娘の思い
――きずな選手は箱入り娘だったようだから、お母さんからするとプロレスを遠ざけたかったでしょうね。
田中 大切に育ててもらったなっていうのは、自分でもわかるくらいで。プロレス会場に行ったときも、タバコが吸える場所の前を通るとママが、「きいたん、いまから息を止めて」とか言われて、息を止めて。タバコは体に悪いから、そういうところに近づいちゃダメみたいな感じとかもあった。
――どういうタイミングで“告白”したんですか。
田中 高校の説明会の日です。お母さんと2人で行って、進路を決めていかなきゃいけないじゃないですか。お母さんは、私がプロレスをやりたいっていうのがわかっていながらも、大学をすごく勧めてきたんですよ。大学を出てからプロレスラーになられる方もいらっしゃるけど、自分はもう1日でも早くプロレスラーになりたいっていう気持ちがすごく強かった。お母さんから、「大学のことを考えるとこの学校がいいんじゃない?」って言われても、まったく何も頭に入ってこない。
――お母さんも、娘の興味をプロレスから逸らそうと必死だったんですね。
田中 ですね。ピアノをずっと習っていて得意だったので、音楽コースのある高校に入って、ピアノで推薦がもらえるっていう話もあったんですけど、そうすると音大に進まなきゃいけない。お母さんはたぶんそこに行ってほしかったんですよ。すごく素敵な学校だし、将来は音楽の道でって思ってるんだろうなってわかったんですけど……。私はピアノも好きですけど、プロレスしか考えてなかったので、「早く言わなきゃ」って。
部活動紹介も一緒に見てて、いままでは格闘技なんてやったこともなかったのに、「空手部に入りたい」って言ったんです。そしたらお母さんが、「空手? プロレスやりたいんじゃないでしょうね」って言って、「もうこれは言うしかない!」と決めて、勢いで言いました。車のなかで言ったんですけど。
「お母さんは高校を中退してるから、あなたには…」
――事故っちゃうよ!
田中 (車を)止めて、大号泣でした。「いつか言われるってわかってた」って言われて。そこでした約束として、「本気なら応援してあげたいけど、高校生活も楽しんでほしい」って。「お母さんは高校を中退してプロレスラーになってるから、あなたには高校生活を楽しんでほしい。ほんとは大学にも行ってほしかった。(自分が)できなかったことをやってほしかった」みたいな気持ちがあったみたいで、とにかく「高校だけは卒業してほしい」って。「部活も、プロレスと関係ない、自分がやりたいことをやってほしい」って言われて。私的には空手か柔道って思ってたんですけど、チアダンス部に入りました。お母さんと約束した、卒業すること、部活と両立させることを守りながら、高校2年生でwaveの練習生になりました。