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「世界記録保持者もこんなに苦労するんだ…」女子ハードル田中佑美(25歳)がパリで感じた“世界との距離”「決勝はもう一段階、上の実力がないと」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph by(L)Shiro Miyake、(R)JMPA
posted2024/11/15 11:02
初の五輪で準決勝まで進出した富士通の田中佑美(25歳)。一方で、決勝の舞台には「大きな壁」を感じる出来事もあったという
――世界との差をどう感じているのか?
パリを終えてこうした質問を受ける機会が増えたというが、田中は自分なりの尺度を持ち合わせている。
「世界との差ってよく言いますが、それって速い選手とそうでない選手との差であって、世界と日本の差ではないなと思ったんです。なので、世界の壁にチャレンジというよりは、一つ上、二つ上の選手との差を埋めるために頑張っていこうというモチベーションのほうがしっくりきます」
速い選手との差――田中が一つの「指標」としているのは、準決勝で隣を走ったピア・スクジショフスカ(ポーランド)。決勝進出はならなかったが、組3着で12秒55をマーク。世界室内女子60mハードルでは銅メダルを獲得している。
「最初の数台は彼女のことがしっかり見える位置につけていたんです。ここについていけば少なくともベストが出るという気持ちで必死にすがりついていたのですが……」
準決勝で感じた「新しい技術」と可能性
そこで田中が考えたのは、彼女と同じテンポ、リズムでインターバルを刻むことだった。
「単純にインターバルを同じリズムでタンタンって刻めば同じ速度になるじゃないですか。それで脚を回そうとしたのですが、その瞬間にグーンと一気に離されてしまって。『なんだと…!?』って思いながら走っていました(笑)」
田中は、脚を回すことに気を取られて腰の位置が落ちてしまい、結果的にスピードがダウンしていた――と分析する。
「レース後に谷川(聡)コーチに言われたのは、脚をスカスカと回していて、地面の力を上手に受け止められていないのだと。私はアキレス腱が人より硬いので、それに甘えて身体全体をバネのように使って地面からの反発力をもらう走りができていなかったようです。私がまだできる技術ではなかった……と。その走りをもう一度見つめ直して、それができるようにならなければ『彼女との差は埋まらないよね』と話しています」