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「遠慮しちゃったら、もうチャンスなんてない」ケガで引退、団体移籍→ベルトを巻いた女子レスラーの覚悟…翔月なつみは「全ベルトを獲りたい」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/11/13 17:18
マリーゴールドのスーパーフライ級初代王者となった翔月なつみ
「全ベルトを獲りたいですね」
やっとプロレス界に戻ってきたのだ。遠慮などしていられない。スーパーフライ級王座のあるべき姿も考えた。初代王者として、ベルトに“色”をつけるのも大事な役目だ。
「軽量級ということでスピードのある展開が期待されると思います。私もそれは得意ですし。ただ同じ体格の相手とだからできる試合もあるはず。大きい相手には決まらない投げ技だったり“実はこういう技もできるんだよ”というところが見せられたら攻防のクオリティも上がると思います」
体が小さいからこそできることもある。マリーゴールドのタイトルは4つ。シングル最高峰の“真紅のベルト”ワールド王座、“純白のベルト”ユナイテッド・ナショナル(UN)王座、ツインスター(タッグ)王座、そしてスーパーフライ級王座だ。階級制のスーパーフライ級王座は、大型選手は保持できない。逆に言えば、翔月のような軽量級は全タイトルを狙うことができる。
「全ベルトを獲りたいですね。今それができるのは初代スーパーフライ級チャンピオンの私だけですし」
ここまでスーパーフライ級王座を3度防衛。11月14日の後楽園ホール大会では、青野未来が持つUN王座に挑戦する。全タイトル獲得という目標もあるが、挑戦する理由はそれだけではない。自分が“純白のベルト”を巻いたほうがマリーゴールドが面白くなると確信しているのだ。
「青野未来もマリーゴールドに来て自信をつけてるし、自己主張するようになったと思います。それは私と同じ。でもチャンピオンとしてはどうなのかなって。ベルトを獲りたいという気持ちは伝わってきたけど、獲ってからどうしたいのか。“純白のベルト”の意味や価値をどう思っているのかが見えないんです」
「遠慮しちゃったら、もうチャンスなんてない」
デビューしたスターダムにも“赤いベルト”と“白いベルト”がある。赤いベルトはトップの証。白いベルトはチャンピオンによってテーマが変わる。たとえば中野たむは、争う選手たちがネガティブな感情までさらけ出す“呪いのベルト”と定義づけた。
「私もずっと、白いベルトにどんな意味を持たせるのがいいか考えてきました。マリーゴールドのUN王座も同じですよね。“純白のベルト”を巻いてどうしたいか、自分の中に答えはありますよ。青野にヒントを与えたくないから、今は言わないですけど」
確かに、今の翔月にはスターダムでの新人時代からは考えられない“芯”がある。主張して、そのためにぶつかることを厭わない。その象徴が、11年ぶりに巻いたチャンピオンベルトなのだろう。
「いま遠慮して引いちゃったら、もうチャンスなんてないと思ってます。ベストを尽くせる時間はそう長くない。全部出し切らないと」
マリーゴールドは新団体。顔ぶれやマッチメイクがフレッシュだ。だがそれだけではない。翔月なつみのような選手がいるから面白いのだ。