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「遠慮しちゃったら、もうチャンスなんてない」ケガで引退、団体移籍→ベルトを巻いた女子レスラーの覚悟…翔月なつみは「全ベルトを獲りたい」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/11/13 17:18
マリーゴールドのスーパーフライ級初代王者となった翔月なつみ
5月の旗揚げ戦は、元アクトレスガールズ4人のタッグマッチ。後輩チームに敗れる結果となった。超満員のファンがプレッシャーにもなった。“プロレス界”ではないところからきた自分たちはどう見られているのか、受け入れてもらえるのかと。
アクトレスガールズを離脱すると、SNSで団体側から“逆ギレ”のような言葉を浴びせられもした。事実ではないことまで書かれ、団体は後にそれを撤回している。そういう団体だから主力が何人もやめたのだろうと筆者は見ている。青野未来は「お前がやめるなら団体ごと解散する」と脅された。
帰る場所はない。新天地で思い切りプロレスをするだけだった。試合を重ねると、スターダム時代を知るファンから「別人に見える」と言われるようになった。
「気持ちの面ではデビュー当時より燃えてましたね。プロレスのことを研究してきたし、年齢を重ねて表現に幅も出てきました」
両国大会、自力で勝ち取ったベルト
7月の両国大会では、55kg以下の階級制タイトルであるスーパーフライ級の初代王者となった。11年前はパートナーのカイリが勝って「ベルトを巻かせてくれた」。今回は自力で勝ち取ったベルトだった。
対戦したのはアクトレスガールズから一緒に移ってきた松井珠紗。マリーゴールド旗揚げ戦ではタッグを組んでいる。決意も不安も共にしてきた「ライバルと言える存在」と大会場でタイトルマッチができたのだ。
このマリーゴールド両国大会には、WWEからイヨ・スカイが参戦し林下詩美とシングルマッチを行っている。イヨの日本時代のリングネームは紫雷イオ。翔月にとってはデビュー戦の相手をしてもらった先輩だ。
「小川さんがいて風香さん(元スターダムGM。アクトレスガールズのプロデューサーだったが選手たちを引き連れマリーゴールドへ)がいてイオさんも。しかも場所が両国ですもんね。たぶん選手の中で一番、感慨が深いのは私だと思います」
本当のことを言えば、自分がイヨと闘いたかった。WWEにはカイリもいる。マリーゴールドで頑張れば、いつかリングで向き合うこともあるかもしれない。2人がアメリカで活躍していること自体にも力をもらっている。自分がプロレスから離れていた間も闘い続け、今も第一線なのだ。
「これから誰がエースになるか分からない」
プロ野球選手の従兄弟からも刺激を受けている。2年連続で2桁勝利を挙げた、広島カープの床田寛樹だ。
「小さい頃から知っている親戚が、他のジャンルで結果を残しているというのは嬉しいですね。マリーゴールドが広島で大会をした時もLINEをくれました」
今の翔月には、頑張る理由がたくさんある。ベルト獲得は自信だけでなく「団体を引っ張っていこう」という責任感にもつながった。言葉も試合ぶりも、どんどん力強くなっていく。
「マリーゴールドはできたばかりの団体で、まだ序列やポジションが固定していないんです。これから誰がエースになるか分からないし、もしかしたらそれは1人じゃないのかもしれない。そう思ったら頑張るしかないですよね。夏にジュリアさんが抜けて(WWE移籍)、見ている人には“大丈夫なのか”と思われるかもしれない。そこで誰が団体を引っ張るか。“私しかいない”と思える選手がたくさんいたほうが面白い」
8月末から始まったシングルリーグ戦に合わせて髪を短く切ったのも決意の表れだ。
「長さ含めて、何か中途半端な気がしてたんです。それが試合結果の中途半端さにつながったら嫌だなって」