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「頭が真っ白に」母の本音…ヤクルト2位指名、モイセエフ・ニキータの“ドラフト裏話” 密着記者が目撃した指名直前「監督とのあるやり取り」
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byNumberWeb
posted2024/10/28 17:41
ヤクルトからの指名を受け、家族と記念撮影に応じるモイセエフ・ニキータ
そういえば、前日の取材でモイセエフが言っていた。同じ左バッターとして「村上(宗隆)選手のバッティングを生で見てみたい」と。さらにOB会の林さんの言葉がリフレインする。「なるべく上位で、できれば球場の小さいところがいいなあ」。明治神宮大会ではホームランも放っている。ヤクルトの2位は、本人にとっても100点満点と言っていいだろう。
指名直前、監督はモイセエフに囁いた「あせるなよ」
記者会見で長谷川監督は「高校生の外野手ということで、需要としては一番低いところ。そのなかで2位指名していただいた。ヤクルトスワローズさんの期待を感じます」と話した。事実、今ドラフトの支配下で指名された高校生の外野手は、12球団あわせてモイセエフただ1人。本人も「2位指名というのは思ったより早かったです。ここまで評価されているのは本当にありがたい」と感謝を口にした。
気になるのは、1巡目の指名が終わったあと、長谷川監督がモイセエフの肩をポンポンと叩いたシーンだ。いったいどんな言葉をかけたのか。
「あせるなよ、高卒の外野手だぞ、って。とにかくあせるな、と」
モイセエフも苦笑しながら心境を明かした。
「正直、緊張していて……。あせるなと言われて、ちょっと楽になりました」
27年ぶりのドラフト指名に、豊川高校はお祭り騒ぎだった。野球部員たちによる胴上げが中庭で行われ、体育館からも「おめでとー!」と祝福の言葉が聞こえる。同級生の父母やOB、さらに他の部活の生徒まで集まり、ここぞとばかりにモイセエフと記念写真を撮影していた。
喧騒から離れた校内で、母のアンナさんに話を聞くことができた。指名の瞬間はどんな気持ちでしたか、と。
「もう、キャーって叫んじゃいました(笑)。2位でいきなり呼ばれて、頭は真っ白。本当にうれしい……。ありがたいです」
夫のセルゲイさんが「本当に大変だったのはお母さん」と話していたことを伝えると、「いえいえ、そんな」と顔をほころばせた。穏やかで控えめな笑顔が、夢を叶えた17歳の息子によく似ていた。
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