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「全国放送もあるんだぞ!」ヤクルト2位指名ドラフト裏側に密着…モイセエフ・ニキータを“高校屈指のスラッガー”に育てたロシア出身の父の言葉
posted2024/10/28 17:40
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph by
NumberWeb
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ニキータ、まさかとは思うけど、明日そのカッターシャツで来るとかないよな?
ドラフト前日の10月23日、豊川高校の野球部監督・長谷川裕記は晴れ舞台を控えた教え子にそう声をかけた。案の定、モイセエフ・ニキータはクリーニングしたシャツを用意していなかった。長谷川監督が笑う。
「明日指名にかかったら、全国放送もあるんだぞ、東海地方だけじゃないぞ、って。俺はスーツもシャツもぜんぶ新調したのに、本人は『ブレザーあるかな』とか言っていて(笑)。いますぐクリーニング屋さんにお願いしてこい、と。確認しておいてよかったですよ」
1993年生まれの青年監督にとって、教え子が「ドラフト有力候補」として当日を迎えるのは初めての経験だった。そればかりか、仮に指名されれば豊川高校からは森谷昭仁(元近鉄、楽天)以来、27年ぶりの高卒でのプロ入りだ。取材を打診した段階で、同野球部の山野井伸仁部長は「私どもにとっても初めての経験なので……。慣れないことばかりです」と話していた。
球団から調査書が届き、さまざまな媒体で上位候補にあげられても、「本当に指名されるのだろうか」という懸念は拭えない。長谷川監督が「正直、不安な気持ちもありますよ」と話すのも無理のないことだった。
では、当の本人はどうなのだろうか。ドラフトを翌日に控えたモイセエフが取材に応じてくれた。部室棟の一室で、雨が降りしきる無人のグラウンドを横目に見ながら、率直な心境を語る。
「僕はけっこう楽しみというか、ワクワクしてますね。友達からも『明日だな』って言われました(笑)。明日も普通に授業があるんですけど、ソワソワしちゃうと思います」
モイセエフにしても、「絶対に指名される」という確信があるわけではないだろう。ただ、182cm、87kgのがっちりとした体からは、不安を補ってあまりある期待がにじみ出ていた。
高校入学で「体重20キロ増」
愛知県刈谷市で生まれたモイセエフが野球と出会ったのは小学1年生のころだった。極真空手の東海王者だった父セルゲイさんとともに空手を学び、組手の少年大会で優勝するほどの腕前だったが、兄イリヤさんの影響もあって次第に野球の面白さに惹かれていった。4年生で野球一本に絞ると決めて、硬式のクラブチームに入団する。
「チームスポーツが好きなんです。勝って仲間と喜んで、負けて一緒に悔しがる。それがやっぱり楽しかったですね」
豊川高校に入学した時点の体格は、178cm、66kg。15歳の細身の少年が「目標はプロ野球選手になることです」と宣言したとき、長谷川監督は「8割方、難しいだろうな」と思った。だが、モイセエフの情熱は指導者の想像を超えていた。