警戒心を強めたロペスはフットワークを使って前後左右に動き回り、大橋の攻め手を封じていく。的を絞らせないボクシングをされた大橋はピッチを上げることができない。大橋がこれまで4度の世界戦で対戦してきた韓国の張正九と崔、タイのナパ・キャットワンチャイはいずれもファイタータイプであり、巧みに距離をコントロールするロペスは、今までの相手とは勝手が違った。

「相手が遥か遠くにいるような感じがしました。それまでメキシカンってファイターで、ボディ打ちがうまいという印象があったんだけど、ロペスさんと戦ってずいぶんイメージが変わりました」

「あんなパンチをもらったのは初めてでした」

　ずるずるとペースを失った大橋は4回、強烈なワンツーを食らってダウンを喫する。5回にも右でダウンを奪われた。ほどなく訪れたフィニッシュシーンで、大橋はロペスの実力をいやというほど思い知らされた。

「ロペスさんがボディにジャブを打つ。自分はパリングするんだけど、その動作が大きくて、いつも松本トレーナーから注意されていたんです。そのボディへのジャブをフェイントにして、私がパリングしようとした瞬間に左フックを決められた。あんなパンチをもらったのは初めてでした」

リカルド・ロペスにダウンを奪われる大橋秀行。1995年10月25日、後楽園ホール　©KYODO

　ロープを背負いながら逆転のカウンターを狙っていた大橋の夢が砕け散った瞬間だった。トークショーで大橋が「あれは狙っていたの？」と問うと、ロペスはよどみなく答えてみせた。

「ボディジャブを打つときに、そういうアクション（大きなパリング）をしていたので狙っていました。事前に映像を見た研究でも、あの動作には気がついていました」

　のちにレジェンドとなるロペスとの世界戦は大橋の完敗に終わった。しかしこの経験がのちに指導者となって活きるのだから人生は分からない。井上尚弥の登場も、ロペス戦と無縁ではなかった。

＜後編へ続く＞