- #1
- #2
ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
“生涯無敗の男”リカルド・ロペスの衝撃「会長もトレーナーも真っ青に」大橋秀行が語る“伝説の一戦”ウラ側「相手が遥か遠くにいるような…」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/10/04 17:28
9月24日、都内で“再会”を果たした大橋秀行とリカルド・ロペス。写真はトークショー後の会食での2ショット
「怖いって感じはないねェ。巧いといえば巧いけど、びっくりするほどでもない。スピードもねェ。何か、近くでパンチが意外に伸びるとか、そういうのがあるのかなあ」(『ボクシングマガジン』1990年10月号)
「練習を見た会長、トレーナーが真っ青な顔をして…」
なんとかなるだろう――。米倉会長のセリフからはそんな雰囲気が伝わってくる。「それが間違いだった」(大橋)と分かるのはロペスが来日してからだった。公開スパーリングでロペスは14オンスの大きなグローブでパートナーの日本ランカー、桜井靖高をダウンさせる。いまでこそ公開練習は撮影用に軽く流すのが主流となっているが、昔はガチンコでスパーリングをしていたのだ。
ロペス強し。大橋が一気に危機感を高めた瞬間だった。
「練習を見た米倉会長、松本(清司)トレーナー、成田(城健)トレーナーが真っ青な顔をして帰ってきた。その表情を見て、どんな選手なのかを理解しました」
ロペスは初の世界挑戦を心待ちにしていた。メキシコ外での試合経験はアメリカで一度だけ。もちろん遥か遠い日本に来るのは初めてであり、かなりの緊張もあったと想像される。ロペスは当時の心境を次のように明かした。
「もちろん初めて日本で試合をするので緊張感はありましたが、特別なことは何もありませんでした。食事もメキシコから何かを持ち込むことはなく、普通にホテルで摂っていました。その後、ほかの国にも行きましたが、どこへ行っても同じです」
ホームであろうと、アウェーであろうと、どこでも力を発揮できる。メンタルがタフであることは名選手の条件だろう。主催者発表3500人の超満員に膨れ上がったアウェーの後楽園ホールでも、ロペスはその力を遺憾なく発揮することになった。
「大橋さんはとにかくパンチがあった」ロペスの証言
互いに探り合う静かな立ち上がりから2分ほど、大橋の右フックがロペスの顔面をとらえると、静かだった会場が一気に沸いた。チャンス到来の大橋は「いけば良かったけど、ワナがあると思って躊躇してしまった」とこの瞬間を振り返る。対するロペスは次のように回想した。
「(右をもらって)ちょっと足にきた。大橋さんはとにかくパンチがあった。ここから足を使って距離を取り、ガードを高く上げるように心がけた」