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「一番強いのは気持ちでした」RIZIN王者も絶賛…浅倉カンナ(26歳)の引退試合に見た“特別な才能”とは?「最強でもなんでもなかったけど…」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2024/10/04 17:08
引退試合となったRIZIN伊澤星花戦を終えた浅倉カンナ
「もちろん中立な目で見てるんですけど、カンナが勝つとなんか嬉しいんです」
榊原の言葉に頷くファンは多いのではないか。記者会見に、榊原に買ってもらったという服で出席したこともあった。誰から見ても娘や妹のような存在と言えばいいのだろうか。
出場試合数はRIZIN史上3位。トータルの試合時間は最長だという。脇目も振らずに格闘技にのめり込んで、だからこそ“勤続疲労”や燃え尽き症候群のような状態は、避けられないものだったのだろう。
浅倉はいかに“引退を決意”したのか
昨年4月の試合に勝ったのだが「試合をするのがしんどかった」。ただ練習するだけでなく本気で頑張れるのか、試合までの日々を全力で過ごすことができるのか。疑問に感じてしまう自分がいたのだ。
妥協せずにやり切って、勝利して、結果「気持ちは何も変わらなかった」。試合をする喜びよりもしんどさのほうが遥かに大きい。
浅倉はそんな自分を素直に認め、引退を決意した。それが直接の原因ということではなく、悩みに悩んで決めた。現役を続けるだけなら可能だったかもしれない。でも格闘技が大好きだからこそ、中途半端に続けたくはなかった。最後の試合に向けて充実した練習ができたのは、途方もなく強い伊澤が相手だったからだ。
伊澤にとっても、浅倉は意識する相手だった。同い年、キッズレスリング時代から知っていたし対戦、練習したことも。浅倉のプロでの活躍も、伊澤がMMAを始めた理由の一つだった。
伊澤が圧倒…それでも浅倉は自由に暴れた
試合はチャンピオンが圧倒する。パンチの打ち合いからテイクダウン。2ラウンドには首をねじ切るような攻撃も見せた。そこからマウントパンチ、フェイスロック。伊澤の優位は明らかで、しかし浅倉は絶対にフィニッシュを許さない。
最終3ラウンドは“カンナ”コールの中で浅倉が猛反撃。ギロチンチョークを脱出すると渾身のパウンドを振り下ろす。試合終了間際には顔面への踏みつけも。ファイターとして残された力を出し切るような闘いぶりだった。
そこに、気持ちと技術のアヤのようなものも感じた。一本勝ちが多い伊澤だが、今は打撃に力を入れているという。今回はハイキックを狙っており、実際にヒットしていた。判定3-0での勝利。あらゆる局面で上回っていたが、結果として的が絞りきれなかったようだ。
「打撃も寝技もやりたいことが多すぎて、どこで決めきればいいのか分からなくなってしまいました」
逆に浅倉は自由に暴れるだけだ。泣いても笑ってもこれが最後の試合。今後のためのテーマや課題を考えることなく、必死になるだけだった。それが信じ難い粘りと反撃を呼んだ。