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「一番強いのは気持ちでした」RIZIN王者も絶賛…浅倉カンナ(26歳)の引退試合に見た“特別な才能”とは?「最強でもなんでもなかったけど…」

posted2024/10/04 17:08

 
「一番強いのは気持ちでした」RIZIN王者も絶賛…浅倉カンナ(26歳)の引退試合に見た“特別な才能”とは?「最強でもなんでもなかったけど…」<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

引退試合となったRIZIN伊澤星花戦を終えた浅倉カンナ

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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RIZIN FF Susumu Nagao

 スポーツ、とりわけ格闘技において重要視され、しかし目に見えないものがある。

「気持ち」だ。

「あの選手は気持ちが強い(弱い)」

「気持ちなら誰にも負けない」

「最後は気持ちの勝負」

 この世界ではそんな言葉が飛び交う。目に見えないし数値で比較することもできないのだが、しかしそれは間違いなく“ある”と誰もが信じている。

 9月29日の『RIZIN.48』(さいたまスーパーアリーナ)では、女子スーパーアトム級王者の伊澤星花が、対戦した浅倉カンナについてこう言っていた。

「強かった。気持ちを感じました。試合前はタックルとかが強い選手だと思ってたんですけど、一番強いのは何よりも気持ちでした」

勉強より練習、テレビは格闘技中継だけだった

 伊澤星花vs.浅倉カンナは、浅倉の引退試合として行われた。最後の試合で、浅倉が無敗のチャンピオンとの対戦を望んだのだ。とびきり強い相手に挑むのでなければ、それこそ気持ちがもたなかった。

 選手が格闘技に取り組むのは、試合のリング上だけではない。日々の気が遠くなるような反復こそが格闘技だ。タックルの打ち込み、ミット打ち、スパーリング。疲労とケガに向き合い、負ける恐怖と闘い、さらには減量も。体と心を削った先にしか勝利の栄光はない。

「試合をするって、当たり前のことではないので」(浅倉)

 1997年10月生まれの26歳。年齢としては若いが、10代でプロデビューしているから“ファイター年齢”は重ねている。幼い頃から父の指導でレスリングに打ち込んできた。勉強よりも練習、テレビは禁止。見ることを許されたのは格闘技の中継だけだったそうだ。

 2016年、RIZIN参戦を果たすと2017年大晦日には女子トーナメント優勝。決勝で倒したのは、憧れの存在であるRENAだった。榊原信行CEOが「今よりも女子のプレゼンスが大きかった」と振り返るRIZIN初期の舞台で、RENA、山本美憂とともに大きな役割を果たした。

「カンナが勝つとなんか嬉しいんです」

 RIZINの旗揚げは、世間に再び格闘技をアピールするための取り組みでもあった。その中で女子MMAはとりわけ新鮮な魅力を持っていた。RIZIN立ち上げ、その1回目の記者会見で、榊原は「女子にはめちゃくちゃ力を入れます」と宣言している。

 浅倉に関して言えば、実力だけでなく“高校生ファイター”という話題性も大きかった。制服で入場したこともあるし、記者会見や勝利者インタビューの言葉はとにかく初々しかった。榊原曰く、RENAを下してトーナメント優勝を果たした瞬間は「RIZINでのベストメモリーの一つ」だ。

【次ページ】 浅倉はいかに“引退を決意”したのか

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