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「ビックリ…地元の野球部がどんどん廃部」中日の人気選手が“自腹で”援助していた…お茶当番なし、龍空も絶賛する“異例の野球クラブ”とは?
posted2024/10/05 11:00
text by
長尾隆広Takahiro Nagao
photograph by
Takahiro Nagao
現役プロ野球選手が、異色の少年野球支援に乗り出した。
話の舞台は、県中央部にある群馬県渋川(しぶかわ)市。人口は約7万2000人で、榛名山、赤城山などが周りを囲む山間都市だ。
2年前の2022年12月、この地に小・中学生を対象とした軟式野球のクラブチームが新設された。チーム名は「S.Y.C」(呼称:エスワイシー)。メンバーは、主に中学校に野球部がない子供たちで構成され、渋川市近辺から集まっている。その運営をサポートするのが、渋川中野球部出身、後藤駿太(中日/31歳)である。
忙しすぎる教員…部活の限界
後藤の中学時代からの恩師で、同チームの監督を務める鈴木友晶さんがチーム設立の経緯を明かす。
「きっかけは2年前、外部コーチだった(渋川市内の)中学校の部活動が廃部になったことでした。日本スポーツ協会公認の軟式野球コーチという資格を持っていたので、クラブチームを指導できることが分かり、話がスタートしました。そもそもその資格も、(中学時代に)駿太が『プロに行きたい』と言ったので、興味本位で取得したのがきっかけ。結果的に今の形になりました」
中学生の野球は、選択肢が大きく2つに分かれる。プロ野球など高校生以上で主に使用される硬式球を使うリーグ(ボーイズリーグ、リトルシニアリーグなど)と、ゴムで作られた軟式球を使う中学校の部活動や地域のクラブチームだ。
今回の「S.Y.C」は後者。鈴木さんは「現状でいうと(月謝が嵩む)金銭面や実力面で硬式のクラブに行けない子が、S.Y.Cへ来ている状況。でも今後メンバーが増え、競争力がつけば、数年後に一つの選択肢として見られていく」と見通す。県内に4つある中学軟式クラブチームは、中体連の県大会に出場する権利がわずか1枠。まだまだ“市民権”を得たと言えない状況下にある。
私も渋川に足を運び、チームを訪れた。ナイター練習前。選手たちは、突然現れた謎のライターにも怯まず、全員が立ち止まり「こんばんは」とはつらつと挨拶してくれた。まだまだ相手の胸元へ正確なキャッチボール……とはいかないが、「やらされている感」は、微塵も感じなかった。
文化庁は2023年度から3年かけ、休日の部活動を各地域のクラブチームなどへ移行すべく整備を進めている。教員の負担軽減などさまざまの要因で、野球に限らず中学校の部活動運営に限界がきてしまったのだ。