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イチロー「こんな野球、見たことない」 高校女子選抜戦、イチローがマウンドで感じていた“恐怖の正体”…松井秀喜も「かなりビビりました」
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byJIJI PRESS
posted2024/09/26 17:04
9月23日、高校女子選抜との試合でのイチローと松井秀喜
イチローがマウンドで感じていた“恐怖の正体”
初回からおじさんたちの目の色が、女子選抜の野球によって変わった。1死からイチローが4連続長短打を浴び、あっという間に3点を失った。過去3年、女子選抜はイチローが投じる130キロ台後半の速球に対応できなかった。だが、今年は違った。左翼から見た松坂、中堅・松井が証言する。
「初回、何点取られるんだろうと思うくらい、女子の選手たちが、まったくイチローさんの速球に対して苦労していない。振りの強さにびっくりしましたね」(松坂)
「初回、かなりビビりました。あのイチローさんの速い球に振り負けていない。かなり速い球にね」(松井)
イチローは驚きを通り越し、マウンドで恐怖さえも感じたという。
「あんなに芯食われるとは全く想像していなかったので、終わらないんじゃないかという不安に襲われました。すごく怖くなりました。(女子高校野球の)レベルが上がってきて、うまいなって思ったことは何度もありましたけど、怖いなって思ったことは今日が初めてです」
「こんな野球、見たことないなって」
高校女子では130キロ台の速球を投げる投手は皆無に等しい。事実、この試合でも120キロに達した速球を投げ込んだ投手はいない。彼女たちは直前合宿を行い、イチロー対策として130キロ台のバッティングマシンで打ち込みを続けたという。第1回大会から手を抜くことなく、自分たちへ全力投球を続けてきたイチローを打ち込むことこそ、相手への最大の敬意。それを彼女たちはわかっていた。
そのイチローにしても、次の手は打った。2回から9回まで6安打されながらも、スライダー、シンカー、チェンジアップを中心に要所で速球を決める配球に切り替え無失点。女子選抜に来年の課題を与えた。
結果に関わらず、常に笑顔で全力プレーを見せる女子選抜の野球は、好感を抱くに十分だった。それでも、ネット裏からでは感じとることのできない部分は多い。イチローがそこを熱く説いた。
「実はある高校と練習試合を2試合しているんです。もちろん監督の指導方針が大きいんですけど、相手のいいプレーに対して拍手するんです。その試合で僕、ホームラン打ったんですけど、それも拍手してくれる。彼女たちに身についていることなんですよね。こんな野球、見たことないなって。(女子の野球は)圧倒的に敬意に溢れている」