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[巻頭エッセイ]万城目学、大谷翔平を観戦する
posted2024/09/27 09:00
text by
万城目学Manabu Makime
photograph by
Nanae Suzuki
六月九日、私はヤンキースタジアムにいた。
対戦カードはヤンキース×ドジャース。
交流戦でヤンキースがNYでドジャースと対戦するのは八年ぶりとのことで、「ワールドシリーズ前哨戦」とも騒がれたこの一戦、スタジアムは超満員であった。
そもそも、なぜ私がNYを訪れたかというと、今年の頭に直木賞を受賞し百万円の賞金をいただいたからである。その後、六月下旬に新刊を上梓する準備を整えたところ、刊行までぽっかりと時間が空いたので、賞金百万円をまるっと注ぎこみ、アメリカ一週間のひとり旅を決行したのだ。
はじめてのNY。思っていたよりずっと治安がいい街を歩き回り、ついに訪れたメインイベントが、この交流戦だった。
ひとり旅ゆえ、スタジアムでもひとりである。されど、まわりに単独観戦の人間は皆無で、誰もが友人と、恋人と、家族とともに球場を訪れている。
みなさん陽気だ。そして素直だ。ホームチームにはっぱをかけたいとき、バックスクリーンに、
「Make some noise!(何か騒いで)」
という文字が躍る。なんちゅう他人任せのオーダーや、と私などは思うのだが、ニューヨーカーはこれを忠実に実行する。
日本人とニューヨーカーの決定的な違いがここにある。彼ら、彼女らは無から有を生み出す。何の前触れもなく、いきなり席から立ち上がり、「ヒューヒュー、ガラガラガラガラ(よくわからない方法でのどの奥を鳴らしている)」と紙コップ片手に陽気に腰を振る。ノリがいいというよりも、ノリごと作っている。