あれは95年9月26日のこと。盟友・佐山が主宰するプロ・シューティング（現・プロ修斗）の東京・駒沢体育館大会にて、エキシビションマッチでタイガーマスクこと佐山と12年ぶりに対戦することになった。当時はまだ「似て非なる」プロレス界と総合格闘技界は互いにピリピリとした関係にあり、新日本プロレス社内でも小林の出場に関して反対意見も多かったそうだが、小林は佐山との友情から出場を押し通した。

　前座で好勝負を繰り広げていた若手時代から、ゴールデンタイムを熱狂させた時代まで、互いの手の内は勝手知ったる両選手だったが、佐山のハイキックがもろにアゴへと入ってしまい、小林さんは大の字の失神KO負け。担架で搬送されてしまった。新日本の看板を背負う現役プロレスラーとして、あってはならない場面だった。恩を仇で返される形となった新日本関係者は怒っていたし、エキシビジョンでこの結末は、まあ怒っても良いケースだろう。

　しかし、意識を回復した小林さんときたら「せっかくの大舞台なのに、佐山に申し訳ない……」とポツリ。この問題を「自身に非がある」として収めてしまったのだった。小林さんにとって、佐山はいつまでも「かわいい後輩」だったのだろう。

“名物管理人”と呼ばれた器用さ

　そんな小林さん、引退後は選手管理GMなどを経て、野毛の道場兼合宿所の「管理人」というポストに落ち着いたのだが、こういうのは大抵、名前だけというのもよくあるケースだ。

2013年8月、リニューアルされた新日本プロレスの合宿所を案内する小林さん。キッチンには綺麗に調味料が並べられている（筆者撮影）

テラスの飾り付けも小林管理人が担当（2013年8月、筆者撮影）

　ところが、小林さんは料理、掃除のみならず、スイーツ作りやガーデニングにまで大奮闘。殺風景となりがちな男所帯のリフォームなどなど、おそるべき「女子力」を発揮しはじめ、名物管理人となっていく。人は見かけによらないものだ。

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