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「僕の仕事はゴキブリ駆除でした」総合馬術銅“初老ジャパン”の最年長、大岩義明48歳の運命を変えたのは…「初老」の相棒との奇跡の出会い
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byAFLO
posted2024/09/01 11:03
パリ五輪、障害を飛ぶ大岩義明とグラフトンストリート
「僕はゴキブリ駆除の担当でした。管理しているビルの店舗や社員食堂、ファミリーレストランなど、ゴキブリ退治の最前線で戦っていました(笑)。ゴキブリって冷蔵庫とかいろんなところに入り込んじゃうので、厨房機器メーカー、設備屋さんと一緒に行って機械をバラして中まで細かく施工する。手のかかるやり方をするところだったんですけど、効果はてきめんでした。店舗が閉まる時間帯にしか作業できないので、僕もゴキブリと同じように“夜行性”になっていましたね」
害虫駆除は建物管理には欠かせない大切な仕事だ。その相手が多くの人が忌み嫌うゴキブリであっても、大岩はそれが苦痛だと感じてはいなかった。
「馬術って優雅なところが表に出ますけれど、普段は馬の世話や厩舎の掃除をするのが当たり前です。糞尿の掃除も常にしてきましたし、虫を見るのも普通のこと。それが辛いとか、酷い仕事だとは感じていなかったです」
シドニー五輪をテレビで見て…
しかし新卒2年目だった2000年9月、自身の心を大きく揺さぶる場面に出くわす。テレビの画面ごしに見たシドニー五輪の開会式。そこに映る選手たちの姿と熱量に、いてもたってもいられなくなった。
「小さい頃から夢見ていたのはやっぱりこの舞台なんだ、と思いました。この先、4年ごとに開会式を見るたび『ああ、挑戦しておけばよかった』と思うような人生は嫌だと思ったんです。無理だろうとなんだろうと、まず海外に行こうと。とにかく挑戦して、納得できるだけの形を作りたかった。だから、行きましたね。すぐに」
何かに弾かれるように決意を固め、すぐに退社を申し出た。翌01年、イギリスでファームを経営していた明大馬術部のOBを頼り、裸一貫で渡英。ファームの近くに部屋を借り、厩舎で馬の世話をするアルバイトをしながら、合間に馬に乗る生活が始まった。