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「これからの私は“狂乱の貴婦人”」フェリス卒のお嬢様レスラーが師匠と大ゲンカ…桜井麻衣が“最後のジュリア戦”で見つけた個性
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2024/08/31 11:05
8月19日、ジュリアとの国内ラストマッチで躍動した桜井麻衣
フェリス女学院卒、CA内定…貴婦人はキャラではなかった
新団体でも“貴婦人”ぶりは健在。「スターダムでのキャラをマリーゴールドでもやるのか」という批判もあったそうだ。しかし繰り返すが、貴婦人はキャラなどではなかった。
父親は不動産業を営み、桜井自身も品川女子学院に中等部から通った。大学はフェリス女学院。どちらもいわゆるお嬢様学校だ。大学で読者モデルのサークルに入ったことが芸能界に進むきっかけになったが、実はキャビンアテンダントの試験に合格してもいる。
スターダム時代、DDMのメンバーとプライベートプールらしき場所で遊ぶ写真をSNSに載せたこともある。どこなのかと本人に聞くと「親が入っている会員制ホテル」なのだった。ちなみに両親ともに外食が好きで、伝票をこっそり見たら親子3人でお会計が10万円を超えたりもしていたらしい。
育ちのよさは根っから。そんな女性がプロレス界にいたら、キャッチフレーズが“貴婦人”になるのも当然だ。ただもっと強くなりたい、上に行きたいと思う中で新たな気づきもあった。“貴婦人”は生まれ育った環境からくるもの。ではプロレスラーとしての自分の個性、強みは何なのだろうと考えるようになったのだ。
新団体移籍で生まれた“変化”
新団体では旗揚げ戦で躓いた。リングネームをスターダム時代の「桜井まい」から漢字(本名)の桜井麻衣にして臨んだ一戦。ゼイダ・スティールと組んで野崎渚&マイラ・グレースと対戦したが、全員が初顔合わせのためかうまく噛み合わない。
「周りはみんなガツガツしてるのに、私だけそれを受け止める側に回ってしまって。私は変なところで引いてしまう癖があるんです」
シングル王座戦線に絡むこともなく「自分はこの団体に居場所があるんだろうか」と悩む日々が続いた。同時に“女子プロレス界の人間国宝”高橋奈七永とのチーム結成など新たな刺激も間違いなくあった。Sareeeと対戦すると「こんな凄い選手がいるのか」と思ったそうだ。
「外から乗り込んできた人ならではの“負けられない”というプライドを感じました」
刺激とジレンマが“貴婦人”を変えていく。筆者は折に触れて話を聞きながら、その言葉に鋭さを感じるようになった。たとえば、古巣でもあるアクトレスガールズからマリーゴールドに移籍してきた選手たちについてこんなふうに話していた。旗揚げから1カ月ほど経った頃のことだ。
「アクトレスから来た選手たちは、練習にもみんなで来てみんなで帰るんです。それが悪いことだとは言わないですけど、そのスタンスだと個々の考えが伝わりにくいですよね。言いたいことを言ってやりたいことをやればいいのにって。ケンカしてもいいから本当の気持ちをぶつけ合って“元スターダム”とか“元アクトレス”という区別をなくしたい」
マリーゴールドでの桜井は、自分のことだけで精一杯の若手ではなかった。立ち位置で悩んだのは、視野が広がったからだ。そしてこうも言っていた。
「早くジュリアとシングルマッチがしたい。その時が私のマリーゴールドでの大勝負になると思います。みんな勘違いしてるんですけど、私はジュリアの後を追ってマリーゴールドに入団したわけじゃないので」