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「これからの私は“狂乱の貴婦人”」フェリス卒のお嬢様レスラーが師匠と大ゲンカ…桜井麻衣が“最後のジュリア戦”で見つけた個性
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2024/08/31 11:05
8月19日、ジュリアとの国内ラストマッチで躍動した桜井麻衣
ジュリアと“最後のシングルマッチ”も「自分は自分」
MIRAIと初代タッグ王座を獲得した直後、ジュリアとの対戦が決まる。舞台は8月19日の後楽園ホール大会。以前から確実視されていたアメリカマット挑戦に向け、ジュリアはマリーゴールドを退団することに。日本での最後のシングルマッチ、桜井はその相手として選ばれた。
ジュリアにはスターダム参戦直後、張り手でボコボコにされている。同じユニットになると基礎から叩き込まれた。初の“貴婦人マイク”は、トーナメントでジュリアに勝った時だった。
ジュリアから見れば桜井は愛弟子だ。プライベートも含めて思い入れの強いレスラーだという。記者会見で、ジュリアは桜井に厳しい言葉を投げかけた。「恩返しの意味も込めて勝つ」と言った桜井に甘さを感じたのだ。その鋭い舌鋒を「公開説教」と表現したメディアもあった。
それでも桜井は「私には私の考えがあるので」。団体を去るジュリアの言うことに頷いてばかりはいられなかった。
「ジュリアの言うことはいつも正しくて、誰もジュリアには反論できない。そんな団体じゃいけないでしょう。ジュリアの考えを否定するわけではないけど、自分は自分。みんなそれでいいと思います」
前哨戦の後には「(最後のシングルマッチを)エモい試合にはしない」と決意を語った。“涙の別れ”よりも先に、自分の実力を叩きつけなければいけなかった。ジュリアがいなくても、マリーゴールドには桜井麻衣がいるから大丈夫だと思わせたかった。観客にもジュリア自身にもだ。
試合前に“じつは大ゲンカしていた”理由は…
最後の対戦はジュリアコールの中で始まった。8月25日には希望選手全員と1分ずつ闘う「全員がけ」が決まっていたが、後楽園での試合もシングルマッチもこれが最後。いわば“フェアウェルイベント”だから当然だった。
しかし試合が進むうちに、桜井コールの場面が増えていく。かつて自分がされたように張り手を連打し、さらに頭突き。場外でも一歩も引かずバケツで殴りつけた。それは“貴婦人”のイメージに隠されていた部分だったし、もちろんジュリアに引き出された部分もある。
桜井が粘り、打撃を返し、最後はジュリアが最大の必殺技であるバーミリオンを繰り出した。そうしてやっと3カウント。26分46秒、タイトルマッチ級の激闘だった。
試合後、ジュリアは桜井と大ゲンカしていたことを明かした。その中で、桜井はプロレスラーとしてのジュリアのスタンスにも不満を感じるようになったという。
「私はジュリアに誰よりも厳しく鍛えられた。ジュリアは練習だけでなくプロレスへの姿勢、周りの人たちへの態度まで含めて厳しい人だった。でもマリーゴールドになってからは変わったように見えたんです。いろんな団体から選手が集まってきて、キャリアの浅い選手も多くて、今こそ厳しさが必要なはずなのに、ジュリアは優しくなったなって」