猛牛のささやきBACK NUMBER
「泣いてないです。でも…」オリックス・山下舜平大が379日ぶり勝利に明かした思い…新人王右腕の苦悩と「リリーフ起用」首脳陣の真意とは
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2024/08/26 11:25
今季初白星で杉本(右)と共にヒーローインタビューに立った山下
しかし今年は苦しんだ。4月3日の今季初登板では、ボールを思うように操れず8四死球と荒れ、6回途中2失点で負け投手に。オフの間、より強いボールを投げるためにトレーニングした結果、体が一回り大きくなったが、その体をまだ扱いきれていないようだった。その後も白星は遠かった。
「しんどいっすよ。結果が出てないんで」
そう言いながらも、常に前向きに振る舞っていた。
「元に戻すという考えはあまりなくて…」
「悩めるいい時期というか。こういう状況にならないと考えないこともいろいろあるので。とりあえず、球を思った通りに操って、バッターと勝負する、というのができていないので、原因をまず考えますよね。トレーニング、コンディショニング、技術面、メンタル面。これも違うあれも違うと、いろいろ試しています。いい時は何も考えないですけどね。
元に戻すという考えはあまりなくて、どんどん良くしていければいいかなと。意外とそんなに気にしてないですよ。まあ打たれたりすることが多いので悔しいですけど、結果が出なかったら、また練習するだけだし」
首脳陣もなんとか浮上のきっかけを与えようと苦心し、7月にはリリーフで起用した。厚澤和幸投手コーチはこう明かしていた。
「リリーフ起用」首脳陣の真意
「今の状態で、一軍で先発をしていたほうがためになるのか、二軍で先発なのか、いろんなことを全部考えた中で、とにかく一番は、これからのペータの野球人生に何かしらプラスになることはなにかということ。
即効性を求めているわけではなくて、あいつはそのうちエースにならなきゃいけない存在なので、ブルペンの人たちの気持ちや動きを、自分の体でやってみて思うこともあるだろうから。そういう、いろんなことを含めてやっています」
リリーフとしての初登板は7月20日の楽天戦、2-2で迎えた延長12回表。先頭打者に四球を与え、その後バントと安打で失点し、敗戦投手となった。
翌日、山下と話をした厚澤コーチはこう語っていた。
「ものすごく悔しがっていました。バッターとちゃんと勝負できなかった、一瞬で終わってしまったって。先発は100球の勝負ですけど、リリーフは15球の中で勝負が決まる。いつ来るかわからないその15球のために、どこで集中力を上げるか。そういう難しさを痛感したと思う。もちろん一軍なので勝たないといけないんですけど。先発でやられた時より悔しがっていたから、それだけでプラスなのかなと」
「あそこでペータを出した意味」
リリーフ初登板が、延長戦の緊迫した場面。それにも意味があった。
「井口(和朋)も吉田輝星も山田(修義)もまだブルペンに残っていて、投げられないわけじゃなかった。なのにあそこでペータを出した、その意味ですよね。それは監督からのメッセージでもある。結果的にやられましたけど、あそこでペータを出した意味は、これから先、答えが出ると思う。
初めてのリリーフなんだから楽な場面で出してやってよって、みんな言うんです。でも例えば0-5の場面で出て1失点に抑えて、リリーフできましたと、そういうことを求めているんじゃない。結果昨日は負けたんだけど、でもやられたことを、今後のペータの10勝分に代えられるんだったら、僕はいいと思う。
今すぐにはわからないと思うんですけど、長い年月を経て、この経験が結果的に良かったと思ってくれたら、それでいい。それぐらいのことをしてでも、やはり彼には、のちのオリックスのピッチャー陣を引っ張っていってもらわなきゃいけないので」
伝わってくるのは、山下への特大の期待と信頼だ。