猛牛のささやきBACK NUMBER
「泣いてないです。でも…」オリックス・山下舜平大が379日ぶり勝利に明かした思い…新人王右腕の苦悩と「リリーフ起用」首脳陣の真意とは
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2024/08/26 11:25
今季初白星で杉本(右)と共にヒーローインタビューに立った山下
「泣いてないです。でも…」
そうした経験も糧に、山下は先発に戻り、8月18日に待望の今季初勝利を挙げた。
試合後のお立ち台では、「Bs夏の陣」のイベントの一環として7歳の女の子にインタビューを受けた。
「今年は、チームの皆さんにもほんとに、迷惑かけてばっかりだったので……」
数秒間声を詰まらせ、こう続けた。
「チームもまだまだ、クライマックス、日本シリーズ、全力で目指していますので、その勝利に貢献する一心で、毎日練習に取り組んでいます」
その後の囲み取材では、「泣いてないです」と主張した。
「でも危なかった。子供じゃなかったら泣いてました」
22歳が背負っていたもの
昨季までリーグ3連覇していたオリックスは、今季5位と苦しんでいる。山本由伸(ドジャース)や山崎福也(日本ハム)が抜けた中で、山下は宮城大弥と共に先発の柱にと期待されたが、白星が遠かった。
昨年一軍デビューしたばかりの22歳がそこまで背負いこむ必要はないのだが、周囲の期待が大きく、何より山下自身が昨年以上の活躍をと意気込んでいただけに、責任を感じていたのだろう。
今季初勝利に「長かったです」と喜びを噛み締めた。
「勝たずにシーズンを終わるのだけは、絶対嫌だった。中継ぎの大変さも知りましたし、チームがこういう状況にあるのも自分の責任だと思っているので、少しでも多くチームに貢献することが自分のやるべきこと」
怪物の進化はまだ「序章」
お立ち台では「嬉しすぎてよくわからなかった」ほど気持ちが昂っていたというが、帰り際にはもう冷静だった。
「まだ1勝しかしてないんで。そんな盛り上がることじゃないです」
つい盛り上がってすみません、とこちらが反省。。
本人は復活とも打開とも考えていない。まだまだ進化の序章だ。
「野球をしていると、やっていることがすぐに報われるということはほぼない。すべては継続。貯金しておいて、開く時に、一気に開く。そういうものだと思う。今はこういう時期ですけど、のちのち、『あれをやっといたから今があるんだな』と言えれば、それだけで価値がある」
視線の先は果てしない。
「次が大事です」
その冷静さが頼もしい。