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「僕のせいで負けた」失意の銀メダリストを“父親”鬼コーチが抱きしめた…フェンシング・山田優が明かす「母子家庭育ち」「男子エペ家族物語」
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byMATSUO.K/AFLO SPORT
posted2024/08/22 11:05
東京五輪での金メダルに続き、パリでも銀メダルを獲得した男子エペ団体。山田優(写真右から3人目)が明かす「家族」のようなチームの絆とは
自身のキャリアとサーシャコーチの任期を考えた時に「父親との最後の五輪」になる予感が山田にはあった。だから追いつかれた時に感じたのは、メダルというプレゼントを渡せなくなる危機感だった。
「いつもはすごい怒るんです。ただ、準決勝は特に何も言われず、『お前を信じる』と送り出されて、珍しいこともあるものだな、と」
追いつかれた山田はその後、危機感によって決意を新たに怒涛の得点を積み重ね、勝利を意味する「45点目」に達し、45-37で難敵チェコを撃破した。
決勝戦後の抱擁「涙が出そうになりました」
迎えた決勝戦、山田は3度の出場機会すべてで相手に上回られた。日本に流れを持ってくることができず、アンカーの加納に2点ビハインドでバトンを渡した。加納が追いつくも延長戦で敗れ、団体戦は惜しくも準優勝となった。
そうして、語られた冒頭の「僕のせいで負けてしまった」。じつはその言葉には続きがある。
「なのに、(サーシャは)一切怒ることなく抱きしめてくれたんですよ。そんなこと初めてで。いつもだったらめっちゃ怒られるところで、何も言わずに『ありがとう』って言って抱きしめてくれて、涙が出そうになりました。僕にとってはメダル以上に嬉しいことでした」
地元の三重に近い名古屋で開催される「(2026年の)アジア大会で辞める」という思いで今回のオリンピックに臨んだ。山田は男子エペの面々を「家族」と表現する。今回五輪に出たメンバーで言えば、父のサーシャコーチ、そして気配りの兄・見延和靖、しっかり者の弟・加納虹輝、不思議な雰囲気を宿す末弟・古俣聖、といったところか。その関係性をこう説明する。
「プライベートも仲良くて、本当あちこち一緒に行ってお酒飲んでワイワイして、みたいな。お互いへの信用や信頼がどの種目よりも強いと思う」