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“藤井聡太14歳の30連勝を阻んだ男”佐々木勇気とは何者か「NHK杯で藤井撃破→竜王戦に挑戦」「スポーツ青年…最近の趣味は盆栽や書道」
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/18 17:00
2017年竜王戦決勝トーナメントでの佐々木勇気五段。藤井聡太四段の連勝記録を「29」で止めた
藤井四段は16年12月のデビュー戦に勝った後、連勝街道を邁進していった。そして17年6月26日に竜王戦決勝トーナメント1回戦で、6組優勝者の藤井は5組優勝者の増田康宏四段(当時19)と対戦。その開始時に東京の将棋会館の特別対局室の片隅から藤井をじっと見つめていたのが、4組優勝者の佐々木五段だった。
その場にいた理由は、佐々木は2回戦で1回戦の勝者と対戦するからだった。
メディアは藤井の連勝に注目していて、対局のたびに多くの報道陣が集まった。佐々木はそんな空気に慣れたいと思い、観戦記の解説者として立ち会った。事前偵察でもあった。
藤井は増田に勝ち、前人未到といえる29連勝の最多記録を達成した。佐々木はその一局を見たのち、このように意気込んだ。
「周りの空気に飲まれずに連勝を止める気で臨みます。藤井四段の勝利へと導く読みのスピードには凄みを感じますが、それにひるむことなく自分の将棋を指したい」
30連勝を阻止した佐々木が語った「意地」
2回戦の佐々木−藤井戦は7月2日に将棋会館で行われた。
当日も100人以上の報道陣が詰めかけていた。将棋連盟は不測の事態を避けるために、会館の内外に警備員を配置した。
戦型は相掛かりで、序盤から波乱含みの展開となった。実は佐々木は藤井との対局に備え、研究仲間の永瀬拓矢六段(同24)と練習将棋を重ねた。その研究テーマが実戦で生かされ、有利な戦いを進めた。そして終盤で寄せ合いを制し、佐々木が藤井の玉を即詰みに仕留めた。佐々木は藤井の30連勝にストップをかけ、藤井は30局目の公式戦で初黒星を喫した。
両者は終局後に、感想を次のように語った。
佐々木「将棋は自分の形を作れ、ペースを握れました。私たちの世代の意地を見せたいと思っていて、壁になれて良かったです」
藤井「機敏に仕掛けられ、そのまま押し切られました。連勝はいつか止まるもの。仕方ありません。今後はもっと強くなって頑張りたい」
藤井の対局はABEMAでネット中継されて、多くの人たちが視聴した。29連勝を達成した増田戦の視聴数は793万と大きく伸び、佐々木戦は1242万と驚異的な数字に達した。藤井を破って一躍有名になった佐々木には、いわゆる“イケメン”ということもあってムック本やDVDの刊行、人気歌手とのタイアップ企画の依頼が後日にきたという。しかし、将棋に集中したいという理由で辞退した。
佐々木が語った「藤井さんの本当の強さ」とは
佐々木は藤井との初対局(17年7月の竜王戦)に勝ったものの、その後はB級2組順位戦(20年6月)、銀河戦(21年5月)、B級1組順位戦(22年3月)と、いずれも藤井に敗れている。
そんな状況について佐々木は、こう正直に語っている。