「今日、お前の中学のボーイズの関係者に会って来た。そこでな、こう言われたんや。西谷、お前、いつまで藤浪と心中するつもりなんや？　あいつは中学でも全国に行けんかった。勝てない運命なんや。そんな投手にいつまでこだわるんやって」

　心が疼いた。能力は高いが、ここ一番で勝てない投手――。自分のことをそう評する声があるのは知っていた。

〈とても悔しかったです。でも、自分と同じくらい西谷先生も悔しそうにしていて。俺は悔しい。あんなこと言わしといてええんかって、そう言われました。それがあったから甲子園で優勝できたとは思いません。そういうことではないんですけど、ただ、熱いなと……〉

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　西谷は言葉とともに体温を伝えた。だからだろうか、繰り返されるフレーズは記憶の芯に刻まれ、刷り込まれていく。

〈きれいに勝とうとするな。泥臭く、粘り強く。その言葉は一度のミーティングで2度か3度は必ず出てきました。僕らに分かりやすい言葉で、抑揚をつけて、何度も繰り返す。後から考えると革命の指導者が演説でやるのと同じ手法ですよね〉

　それぞれ中学時代に名を馳せた野球エリートたちに、西谷はそのイメージとは対照的な言葉を投げかけ続けた。泥臭く、粘り強く。それが実際にはどういうことなのか、藤浪が目の当たりにしたのは3年春のセンバツでのことだった。

甲子園の準々決勝、ノーアウト満塁で西谷が動いた…

　2012年3月30日、大阪桐蔭は強豪・浦和学院との準々決勝を戦っていた。初戦で大谷翔平を擁する花巻東を、2回戦では九州学院を相手に完投勝ちしていた藤浪はこの日、リリーフ待機だった。先発した澤田圭佑（現・千葉ロッテ）の後を受けてマウンドに上がったのは6回からだった。そんなエースに試練が訪れる。

　1対1で迎えた7回裏、3連打を浴びてノーアウト満塁のピンチに立たされた。微妙な飛球を野手が2度捕り損なうミスも絡んでいただけに重苦しい空気が流れた。西谷が動いたのはその時だった。