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「私のオリンピックは終わってしまいました」田中希実が味わったパリ五輪“絶望”からの収穫「幸せを噛み締めたい…完遂できたんじゃないかな」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byRyosuke Menju/JMPA
posted2024/08/12 19:30
パリ五輪1500mと5000mに出場した田中希実。両種目とも決勝進出はならずも、2度目の五輪で味わった絶望と収穫とは…
田中はこれまでの世界大会で、入賞や自己ベストなど目に見える結果にこだわってきた。
中長距離はレース展開によって思うようなタイムを出せないこともある。それでも田中は目に見える結果をほしがった。
「結果を出さないと自分には価値がないんです」
6月のダイヤモンドリーグ、ストックホルム大会のレース後、何気ない話をしている時に田中は突然、そう言ってポロポロと涙をこぼした。
周囲の誰かがそんなことを言ったわけではない。もちろん誰もそんなことを思っていない。毎日努力していること、全力を尽くしていることを知っている人たちが、彼女を責めることはない。
「自分は走ることしかできない。結果を出さないと生きている価値がないんです」
そんなことない、と繰り返し伝えても田中は肩を震わせる。
大粒の涙がぽたぽたと床に落ちる。
夕飯から戻ってきたほかの選手たちが通りすがりに田中を目にし、何事かと驚き、心配そうに見守る中での出来事だった。
それほどまでに結果にこだわっていたにも関わらず、パリ五輪での結果を冷静に受け止めたのには理由がある。
たくさんの人に支えられ、駆け抜けた先で待ってくれている仲間がいることに気づくことができたからだ。
「結果を出すことで自分の存在価値や居場所を見つけられるんじゃないか」
田中はずっとそう考えていた。
特に東京五輪以降、日本の女子中長距離を牽引する選手として取り上げられ、知らず知らずのうちに自ら大きなプレッシャーをかけていた。
「かっこよく走らないといけない」
「負けたくない」
「応援してくれる人たちに応える走りをしなきゃいけない」
たくさんの涙を流し、気づいたこと
田中が日々、命を削るように努力しているのを知る人たちは、田中が負けても、泥臭いレースをしても応援し続けるはずだ。もちろんアスリートとして走り続けるためには結果は必要だ。でもそれだけではないと視野を広く持てたことは大きい。