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「無敵の金メダリスト」藤波朱理20歳、圧巻なのは“強さ”だけではなく…「五輪のレスリングでこんなの見たことない」現地記者が驚いた“ある光景”
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2024/08/10 17:40
レスリング女子53kg級で金メダルを獲得した藤波朱理(20歳)。圧倒的な強さで中学時代から続く公式戦の連勝記録を「137」とした
藤波朱理が持つ「強さ」だけではない引力
その後も藤波の独擅場は続く。まずはセコンドに就いた父・俊一さんに思い切りダイブして、喜びを分かち合った。
「娘に抱きつかれたのは初めて。たぶん最初で最後だと思うけど、(事前に)何も知らされていなかったのでうれしかったですね」
父だけではない。観客席にいた母や祖母、そして練習パートナーへの感謝の気持ちを直に伝えることも忘れなかった。藤波はわかっていた。応援してくれる人たちがいたからこそ金メダルを獲得できたことを。
アリーナに設けられたテレビ局のインタビューブースに行く前には最前列の観客と笑顔でハイタッチを繰り返した。オリンピックのレスリング競技で、こんな光景を見たのは初めてのことだ。藤波はニコニコだったが、目の前で金メダルを獲得したばかりのレスラーとの接触に観客はみな興奮していた。これから流行るパフォーマンスになるかもしれない。
表彰式が終わると、2位のジェペスグスマン、3位の中国・龐倩玉や北朝鮮・崔孝京と一緒に笑顔で記念撮影に収まった。オリンピックの開催期間中も、戦禍は収まっていない。世界が緊張状態にある中で、他のメダリストたちと和気あいあいとした空間を作り出せたのは、紛れもなく藤波の人間力によるものだろう。
レスラーとしての圧倒的な強さだけではない。20歳の金メダリストは我々にスポーツの持つチカラを改めて教えてくれたのか。