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「無敵の金メダリスト」藤波朱理20歳、圧巻なのは“強さ”だけではなく…「五輪のレスリングでこんなの見たことない」現地記者が驚いた“ある光景”
posted2024/08/10 17:40
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
あの衝撃をいまも忘れることはできない。今年7月上旬の出来事だ。オリンピック前の最後の取材をするために都内で藤波朱理に会うと、彼女は片目に眼帯をつけて現れた。
「今日、写真は撮ります?」
眼帯の下は大きく腫れ上がっていた。
「このくらいのケガはしょっちゅうしているので」
――いったいどうしたの?
「一昨日、練習中にバッティングを受けちゃったんですよ。今日から軽い練習は再開しようと思ってるんですけどね」
他の格闘技で眼窩底骨折や網膜剥離の例を何度も見ている筆者は顔面蒼白になった。バッティングとて、致命的なケガにつながることもある。
3月には激しいスパーリングをしている最中に左ヒジのじん帯を損傷し、すぐに手術を受けなければならないほどの大ケガを負ったばかりなのに……。パリ五輪までの最終調整に悪影響はないのか?
不安にかられる筆者の心を見透かすかのように、藤波は言い放った。
「このくらいのケガはしょっちゅうしているので大丈夫ですよ」
本人が語る通り、バッティングで顔を腫らすなど、オリンピックで金メダルを狙う者にとっては“かすり傷”程度のものだったのだろう。案の定、パリの大舞台でも、筆者の心配は杞憂に終わった。
世界選手権で苦戦した“因縁の相手”に圧勝
8月8日、パリ五輪のレスリング4日目。女子53kg級決勝で世界ランキング1位のルシアジャミレス・ジェペスグスマン(エクアドル)と対戦した藤波は、対戦相手に足を触らせることなく点数を重ねていき、最後は10-0。野球における“コールドゲーム”に相当するテクニカル・スペリオリティで勝利を奪った。
昨年の世界選手権の準々決勝で対戦したときには、第1ピリオドに両足タックルからのテイクダウンなどでいきなり5点ビハインドというピンチに見舞われた。