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トランポリンを離れ、回転寿司屋でアルバイト「正直、二度と出たくないと…」失意の東京五輪から3年、森ひかる(25歳)がパリで取り戻した笑顔
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/03 17:04
パリ五輪では6位入賞を果たしたトランポリンの森ひかる(25歳)
東京五輪後はトランポリンから離れ、回転寿司のアルバイトも
振り返れば東京五輪後は、「オリンピックの印象が最悪で、正直、二度と出たくないと思っていたんです」と言う。
3年前の東京五輪では、19年世界選手権の金メダリストとして大きな期待を寄せられての出場だったが、まさかの予選敗退。森は滂沱の涙を流した。
その後は一時、トランポリンから離れる生活。中学時代から拠点としてきた金沢に行き、市内の回転寿司店でアルバイトをしたこともあった。引退を考えたこともあった。
けれども、トランポリンが好きという自分の本心から目を背けることはできなかった。現役続行を決意し、大学を卒業するタイミングだった2022年の年明けに所属先を探してTOKIOインカラミに自らメールを送って直談判。その情熱は同社の社長に届き、契約と相成った。
ただ、現役続行を決めたものの、高いパフォーマンスは容易には戻ってこなかった。それまで楽にできたことができなくなるなど、感覚を戻すことに苦労し、自信を失うこともあった。
3年間の努力が詰まった「たった20秒」
けれども森は諦めなかった。
「オリンピックって、トランポリンって、本当に難しいんですよ。一日ですべてが終わってしまうし、本当に一瞬。16人しか出場できないですし」
森が言うように、オリンピックでのトランポリン競技は予選2本で決勝1本。1回の演技は約20秒で終わる。4年間を懸けてきてここですべてを出し尽くすのは至難の業だ。出来るのは積み重ねてきた努力を信じて演技すること。
「私はここまでの過程で、オリンピックとトランポリンからすごくいろんなことを学べました。オリンピックには通常の二倍、三倍ものいろんな感情があったんですけど、その感情をすべて楽しもうと思ってました」と森は語る。
総合大会である五輪の楽しさを改めて実感することもあった。選手村ではフェンシング女子フルーレ団体銅メダルの東晟良と同部屋。「パリに着くまで誰と一緒の部屋なのか分からなかったのですが、元々、友達の東さんだったので、そこから本当に毎日楽しめました。本当に彼女で良かったなと思って、オリンピックっていいなと感じました」