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なぜ関田誠大のトスは打ちやすい?「トリッキーにも見えるけど…」元日本代表・清水邦広が語る、味方だけがわかる天才セッターの“絶妙な匂わせ”
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byVolleyball World
posted2024/08/01 17:02
絶大な信頼を寄せられるセッター関田誠大(30歳)。不遇時代を知る清水は、記憶に残る食事会のエピソードを明かした
2人が初めて日本代表でプレーしたのは、2016年のリオ五輪最終予選。当時の正セッターは同じパナソニックの深津英臣(現・ウルフドックス名古屋)で、セカンドセッターの関田に巡ってくる出番は数えるほどしかない。試合の勝敗もさることながら、誰だって試合に出たいのは当たり前。しかし、当時日本代表の主将を務めていた清水の目に映る関田は、常に冷静に、むしろ淡々としすぎているように映っていた。
「確かに深津(英臣)はいいセッターですけど、そこを蹴落として出てやろう、というぐらいの反骨心は(関田から)感じられなかった。悔しさを出すことがほとんどなかったんです。だから、あの時の関田は衝撃でした」
清水が回顧する「あの時」はいつを指すのか。リオ五輪予選翌年の2017年。リオ五輪への出場を逃した男子代表は中垣内祐一監督が就任し、フィリップ・ブランがコーチとして招聘され、東京五輪に向けた新チームが始動したころだった。
「普通、メシに行った後に練習します?」
清水も関田も日本代表登録選手に選ばれていたが、ケガでリハビリ中の清水は合宿に参加せず。そして関田もアジア選手権、ワールドグランドチャンピオンズカップに出場するメンバーから外れ、合宿途中で帰阪していた。パナソニックの練習に合流すると、関田から「なぜ選ばれなかったんだ」という悔しさが伝わってきた。
そんな姿を見かねた清水は、リベロの永野健と共に関田を食事に連れ出し、2人で励ました。
「深津(英臣)と比べても遜色はないし、持ち味が違うだけ。今回は外れてしまったかもしれないけど、実力で落ちたわけじゃない。だから、お前ももっと死ぬ気で頑張れよ。もっともっと伸びるから、気を落とさず、この悔しさも糧に頑張って行こうぜ」
驚いたのはその後だった。食事を終え、清水と永野は帰路につく。だが、関田はその足で自主練習すべく体育館に向かった。「自分ならそんなことあり得ない」と清水は何度も繰り返す。
「普通、メシに行った後に練習しますか?(笑)こいつすごいなってびっくりしたし、よほど悔しかったんだなって。でもそこから本当にメキメキ上達して、練習中の一本一本はもちろん、コンディショニングに対する意識もガラッと変わった。ここから関田は伸びていくんだろうなと思っていたら、想像していたよりもずっと、すごい選手になった。ここ数年、間違いなく、誰よりも成長したのが関田です」