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慶応大卒の異色ランナー・樺沢和佳奈(25歳)とは何者か?「将来的に起業したくて…」悲願のパリ五輪出場までにあった「2つの異例の決断」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2024/08/01 11:03
パリ五輪で女子5000mに出場する樺沢和佳奈(25歳)
大学卒業後に、もうひとつの“異例の決断”
さらに、同年には忘れがたい体験をした。地元群馬県で東京五輪の聖火ランナーを務めたことだ。この経験が、樺沢にとって五輪への思いをより強くした。
「母の勧めで応募しました。競技場の中を走ったんですけど、観客の皆さんの聖火を見る時間が長くなるようにゆっくり走るんですよね。あんなにゆっくり競技場を走ることなんて人生でないなっていうくらい。聖火リレーを走れて誇りは感じました。でも内心『こんなにゆっくり走って何してるんだろう? ちょっと違う……』とめちゃくちゃ複雑でした。選手として東京五輪に出たかったです」
大学卒業後は資生堂に入社し、実業団選手となった。そして、2年後の'23年4月、現在所属する三井住友海上へ移籍を果たした。
「高校のときのように『このままでいいのかな?』と思って、考えた末に後悔しないために決断しました。(資生堂が)私の意見を尊重してくださって、移籍を許してくださいました」
いずれも、女子陸上界では名高い名門だ。留まって練習に励めば思い描いた通りの成長を遂げられるかもしれない。むしろ、環境を変えることに伴うリスクを考えれば、2年目での移籍の決断もまた、異例である。だが、間違っていなかった。
「ここで五輪に出られないなら、もうどこでも出られないと思うくらい、自分に合っています。競技をする最後の場所にふさわしいと思って生活しています」
25歳とは思えない“行動力”
三井住友海上へ移籍し、充実の2年目を過ごしている。その日々は成果として表れ、五輪出場権も手にした。自ら熟慮し、納得のいく決断の連続はここ一番での強さにもつながるという。
「自分で考えて、自分で決断して選択して行動する方が、最終的に最後の踏ん張りにつながるということを学べました」
紡がれる言葉の数々は、25歳という若さとは思えない力強さがある。当の本人が「同世代の子たちよりは決断してきたので(笑)」と話す通り、経験に裏打ちされたものだろう。
数々の決断の末、悲願の挑戦権を手にした。あとは全力疾走するだけだ。悔いなき走りが花の都で咲き誇る瞬間を楽しみに待とう。
樺沢和佳奈Wakana Kabasawa
1999年3月24日生、群馬県出身。中学、高校と駅伝の全国大会で好成績を収め、慶應大へ進学。'20年日本インカレでは2部門で3位に輝いた。'23年より三井住友海上女子陸上競技部に所属。164cm。