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「100m走って…もはやスポーツじゃない」人気漫画家が“たった10秒間の距離”に惹かれたワケは? 4年間の努力が一瞬で…「え、これでもう失格なの?」
posted2025/10/03 11:05
映画化された『ひゃくえむ。』の主人公・トガシ(右)とライバルの小宮。作者の魚豊さん、監督の岩井澤さんは100mという種目の魅力をどう感じるのか
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
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魚豊・講談社/『ひゃくえむ。』製作委員会
100m走という、たった10秒間の輝きに憑かれた選手たちの「情熱と狂気」を描いたコミックが『ひゃくえむ。』(講談社)だ。現在、アニメ映画も公開中の同作だが、その競技時間の短さや、個人競技ゆえの描き方の難しさから、そもそも漫画作品のテーマにはなりにくい100m走という種目をなぜ主題としたのか。原作者である魚豊さん、映画化の監督を務めた岩井澤健治さんの2人が作品を通じて感じた「求道者たち」のリアルとは?
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「え、これでもう――失格なの?」
2016年の夏のこと。季節は折しもリオオリンピックの真っ最中である。
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たまたま横目で見ていたテレビの中では、100m走でフライングを犯した選手が一発失格になっていた。
「この一瞬のミスで、ほんの10秒間すら走らせてもらえないのか。また4年後まで待たないといけないのか。僕自身がこれまでほとんどスポーツをやったことがなかっただけに、逆にその事実がめちゃくちゃ新鮮に映ったんです。なんて緊張感なんだろう――と」
そんな風に当時を振り返るのは、人気漫画家の魚豊さんだ。
アニメ化もされた『チ。―地球の運動について―』(小学館)で手塚治虫文化賞マンガ大賞を史上最年少受賞した魚豊さんだが、実は連載デビュー作はこの100m走をテーマにした『ひゃくえむ。』(講談社)である。
なぜ「100m走」を漫画のテーマに?
特に魚豊さんが競技経験者というわけでもなく、過去に同競技でヒット作の前例があったわけでもない。漫画における“売れ線”でもない短距離走というジャンルだが、なぜかこのリオオリンピックでのワンシーンが強烈に頭に残ったという。
「もしかしたら、これがその選手にとっての最後のオリンピックかもしれない。なのに、そんな一瞬で終わってしまう。そういう要素を孕んだ緊張感というか、厳かな感じはもはやスポーツですらないように思えて。神事とか伝統芸能とか、そういうものに近い気がしたんです」

