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格闘技PRESSBACK NUMBER
42歳で死去…いったいなぜ? マイク・ベルナルド「日本人に愛された剛腕の悲劇」カメラマンが見た“忘れられない光景”「暗闇の中で聖書を…」
posted2024/07/28 11:01
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph by
Susumu Nagao
持ち前の剛腕でKOを量産し、全盛期のK-1で「四天王」のひとりに数えられたマイク・ベルナルド。明るいキャラクターで日本のファンに愛された“ベルちゃん”は、2012年に42歳の若さでこの世を去った。初来日からベルナルドを撮り続けたフォトグラファーの長尾迪氏が、敬虔なクリスチャンでもあった本人との忘れがたい思い出を回想する。(全2回の2回目/前編へ)
暗闇のスタジオの片隅で
それはある日のK-1オフィシャルスタジオ撮影でのことだった。分刻みのスケジュールに合わせて進行していると、部屋の片隅で誰かが椅子に座っているのが見えた。撮影中は室内をかなり暗くしており、その人物がマイク・ベルナルドだと気がついたのは、選手の着替えのために明かりを点けたときだった。大きな手には一冊の本を持っていた。
「待たせたね、マイク。何を読んでいたの?」
「聖書だよ。僕は子どもの頃からクリスチャンなんだ」
ベルナルドは毎週日曜日には教会へ通う敬虔なキリスト教徒だった。私はキリスト教、ユダヤ教、イスラム教の聖地であるエルサレムを訪れたことがあり、その際に撮影した写真をポストカードにしていた。とっさにそれを思い出し、彼にプレゼントした。
写真を受け取ったベルナルドは、とても嬉しそうに微笑んでいた。これをきっかけに彼との距離が一気に縮まり、撮影前に色々な話をするようになった。
私が2年間ほどアフリカを旅していたことを話すと、ベルナルドは興味深そうに「それはいつ頃の話? 南アフリカには行ったの?」と訪ねてきた。
「ネルソン・マンデラ氏がまだ獄中にいた時代だから、80年代の終わり頃だよ。南アフリカにも行きたかったけど、パスポートに南アフリカの出入国スタンプがあると、他のアフリカ諸国に行くのに色々と面倒なことが多かったから……」
私が口を濁すと、ベルナルドはすべてを理解したように遠くを見つめた。そしてひとこと、こうつぶやいた。
「それはすまなかった。申し訳ないことをした」