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ボクシングPRESSBACK NUMBER
父・井上真吾トレーナーが明かす“井上尚弥vs.ネリ戦”の舞台ウラ…思わずニヤリとした“挑発ポーズ”「全然アリ、いいんじゃないかって」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/07/22 17:10
東京ドームで行なわれた井上尚弥と拓真兄弟のWタイトル戦を振り返った父・井上真吾トレーナー
「全然アリだなと思いましたよ。気負ってやっているなら別ですけど、そんなことはまったくないので。相手のパンチは当たらず、自分のパンチが当たる絶妙な距離をつくっていたし、スピードも尚弥のほうが断然ありますからね。駆け引きという点でも、いいんじゃないかって見ていました」
もはやパンチをもらわないし、逆に自分のパンチを当て切る。そんなメッセージが父にも十分に伝わった。5ラウンドに左フックで2度目のダウンを奪い、続く6ラウンドにはコーナーに詰め、右アッパー、さらに右フックを浴びせて試合を終わらせた。遅かれ早かれ、この結末は父にも見えていたことだった。
「1ラウンドで背中は凍り付きましたけど…」
試合が終わると尚弥と抱き合い、勝利を分かち合った。
「確かに1ラウンドのダウンで背中は凍りつきましたけど、その後はもう安心して見ていました。終わったから言えますけど、お客さんも満足してくれたんじゃないですかね(笑)。僕の感情としては、いつもと同じです。尚弥も拓真も勝ってくれて、無事にいてくれて、ホッとしたっていう。本当にそれだけですよ」
試合後は大橋ジムのメンバーで会見に出席して、応援に駆けつけていた妻たち家族と合流してから帰路へ。その途中に遅い夕食を取り、深夜になってようやく自宅に戻ってからはおつかれさまの晩酌タイム。仕事を終えてから家で飲む一杯は、やっぱりうまい。かくして真吾トレーナーの長い一日が終わった。
サングラスの奥に潜む目がギラリと光る一見コワモテの人は、いつもバイタリティーに溢れている。
尚弥、拓真の専属トレーナーであり、自ら立ち上げた有限会社明成塗装の代表者であり、そして不動産経営などの実業家でもある。掛け持ちは大変かと思いきや、そんなことはまったくないという。
「大変なことをやるのが仕事じゃないですか。(塗装業を始めたときから)そういうふうに教わってきましたから。自分のなかでは別に大変じゃないし、当たり前だと思ってやっているだけなのでまったく苦にもなりません。どの仕事も丁寧に、妥協しないでやる。きちんとやっていけば仕事として結果がちゃんとついてくるってことも分かっていますから」
井上家の余裕大敵「尚弥だって絶対はありません」
職人肌を地で行く父の哲学は、プロボクサーを生業とする尚弥、拓真にも受け継がれている。どんな成功を収めようとも、一つの仕事が終わればまた次の仕事に向かうだけのこと。それを当たり前の行動にしている。