濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「燃え尽き症候群」から岩谷麻優が迎えた“キャリアで一番のピーク”…右ヒジ脱臼まで続いた藤本つかさとの“最高峰の女子プロレス”
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/07/12 17:04
藤本つかさに勝利し、IWGP女子王座を防衛した岩谷麻優
「それでも、私はまだ大技をほとんど出してなかったんです。あのままやってたら30分は軽く超えてたと思う」
岩谷はそう振り返る。実際の試合タイムは16分8秒。藤本が三角飛びからのハイキック「ビーナスシュート」の着地で右ヒジを脱臼してしまった。岩谷の右のエルボーに対し、藤本は左手で張り手を返す。それは右腕がまったく動かないことを意味していた。数々のデスマッチでも選手の状態に気を配ってきたレフェリーのバーブ佐々木は、その瞬間に試合をストップした。
アクシデントによる不完全燃焼。しかし“途中で終わった”にしても、この試合は名勝負だった。「ヒジを脱臼した状態で試合を続けようとするだけでも信じられない精神力です」と何人もの選手から聞いた。藤本は結婚と出産に伴う欠場から今年復帰したばかり。病院に付き添った選手には「陣痛のほうが痛かった」と言っていたそうだ。
一方、岩谷は藤本に「引退とかしちゃダメだよ。ケガを治して、もう一回やりましょう」。藤本と再戦する機会が生まれるなら、この結末も「逆に幸せ」ではないかと言う。それだけの手応えがあったのだ。
岩谷が明かす、じつは“燃え尽き症候群”だった
現在の岩谷の充実ぶりを、あらためて感じる試合でもあった。スターダムの2大王座ワールド・オブ・スターダム(赤いベルト)とワンダー・オブ・スターダム(白いベルト)を2度ずつ戴冠。取れるベルトをすべて取ってきて、その上で「今がキャリアで一番のピーク」だと言う。
「ケガをしてる箇所がなくてコンディションがいいんです。あとはやっぱり経験値。経験を積んだことが自信につながってますね」
視野を広く、余裕をもって試合に臨むことができているということか。しかし本人は「前に比べて、今のほうが必死です」とも。
「赤いベルトを落とした後は、燃え尽き症候群みたいになってたかもしれないです」
そう語る岩谷。IWGP女子王座新設が新たなモチベーションになったが、初代王座決定戦でKAIRIに敗れてしまう。
「その時は会社に“もうIWGPに挑戦することはないです”って伝えてましたね」
それでもKAIRIを下したアメリカのスター選手メルセデス・モネとのタイトルマッチを制してチャンピオンに。
「結果的に第3代王者でよかった気がします。“KAIRIとモネが巻いたベルト”を受け継ぐことができたので」