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棋士人生初の降級後に“ある変化”「指し慣れた将棋は選ばずに…」斎藤慎太郎(31歳)が王位リーグ戦で見せた“大胆さ”の正体 

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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photograph byAsahi Shimbun

posted2024/07/05 06:00

棋士人生初の降級後に“ある変化”「指し慣れた将棋は選ばずに…」斎藤慎太郎(31歳)が王位リーグ戦で見せた“大胆さ”の正体<Number Web> photograph by Asahi Shimbun

心境新たに新たなスタイルを模索する斎藤慎太郎

「4年に1度」は将棋界には存在しない

 眼前の一局――。上位の棋士に取材するとよく出てくるフレーズだ。聞き慣れているので面白味はないかもしれないが、これが真理なのだろう。棋士はどういう結果を残そうと、翌年の棋戦出場が保証されている。「4年に1度」という言葉は、将棋界には存在しない。チャンスがある世界なのだ。だから冒頭で書いたような「勝ちたい」と思い詰めることはせず、感情の波をできるだけ少なくして、実力を安定して発揮することが肝要なのである。

 挑戦者決定戦で、斎藤は言葉通りに普段とは違う指し方を試みた。

「早めに横歩を取らせて銀冠の形を作った。玉形を堅くして、中・終盤の勝負に賭けました」

 実際に勝負を分けたのは終盤戦の入り口だった。斎藤は敵陣に飛車を下ろしたが、形勢を損ねてしまった。

「我慢が足りなかったです。緩衝材のような手を入れてから飛車を打てばまだまだ大変だった」と悔やむ。読みの精度の問題だが、ここばかりは勝ちたいと気持ちが急いて、敵玉に迫ってしまったのかもしれない。

話題を呼んだ結婚で“変化したこと”は?

 王位戦の挑戦権をつかむことはできなかったが、手応えがなかったわけではない。

「王位リーグに残留できたので、前回より前進しています。今期の挑戦は潰えましたが、来期につながる戦いはできました。割と前は向けている感じです」と明るい声で話す。

 取材の最後に、どうしても訊きたかったことを尋ねた。斎藤は2022年9月に結婚を発表し、多くの女性ファンを嘆かせた。結婚によって、対局に向かう心境の変化などはあったのだろうか。

「それはなかったですね。変わったことと言えば、敗戦からの回復が早くなったことでしょうか。勝った時は喜んでくれるし、負けた時は別の話題を振ってくれます。妻は将棋界のことをあまり知らないんです。棋戦のことも詳しくないのでかえって気楽ですし、いつも同じ一局という感じで臨めています」と斎藤は照れながら語った。

 精神面の安定と、技術や戦術面での変化と挑戦。2年ほどの長いトンネルでもがいた末に斎藤が至った境地だ。まだ全身で浴びてはいないが、光は射し込んできている。

斎藤慎太郎Shintaro Saito

1993年4月21日生、奈良県出身。畠山鎮八段門下。2012年四段、'20年八段。'15年度は新人賞、'15、'16年度は勝率1位に輝く。'18年に王座獲得。現在順位戦B級1組に在籍。詰将棋愛好家でもある。

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