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ママ友から「どんな仕事してるの?」産後4カ月でまさかの実戦…“寿引退”を選ばなかった藤本つかさが語る「プロレス引退の唯一の基準」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byL)本人提供、R)Norihiro Hashimoto
posted2024/06/01 17:00
第1子の出産を経て、期間限定復帰中の藤本つかさ
“ママレスラー”になっても変わらない魅力
リーグ初戦は若手のしのせ愛梨紗とフルタイムドロー。10分という短い試合時間、さらに相手も藤本つかさという大きな存在に負けまいと必死にぶつかってくる。しのせはダイビング・ボディアタック4連発で勝負をかけてきた。四方のコーナーから連続で飛んだのだ。
直後、これぞ藤本という場面があった。お返しとばかり四方からのミサイルキック4連発を放ったのだ。後輩の奮闘を受け止め、持ち味を引き出すのではなく、意地になってやり返す。その負けん気が藤本らしい。“ママレスラー”になっても、魅力は健在だった。
変わったのはコンディションの部分。以前ほど完璧ではなくなったという。
「以前は、試合したらダメージが蓄積されないように毎回接骨院などでメンテナンスを欠かさなかったんですが、さすがに行けなくなりましたね。自分のペースで時間を使うことができないので、多少ダメージが残ってても仕方ないという状況です」
ただ体力的な限界は感じていない。期間限定復帰を終えると休業に入るが、また復帰するつもりだ。いま40歳。つまり40代でリングから離れ、戻ってくる。年齢をゴールの基準にしていないからできることだ。
「何歳までやるとか、いくつになったら引退という考え方はしてないですね。基準は一つで、ビーナスシュート(三角跳びからの延髄斬り)ができなくなったら引退。それは以前から決めてます」
ママ友から「どんな仕事してるの?」
近所のママ友からは「どんな仕事してるの?」と驚かれることも。保育園には土日保育で預けているが、平日は基本的に(打ち合わせやメディア出演などで外に出る日以外は)アイスリボンの事務所に子連れ出勤。練習中はいぶきが子供を見ていてくれる。
アイスリボンでは運営会社のスタッフとして働く選手もおり、産休・育休が適用される。会社や試合会場に子供を連れてくることに、周りも抵抗がない。
「それは先輩たちが開拓してくれたからですね。特に広田さん(シン・広田さくら=WAVE所属)がママレスラーというあり方を確立してくれたのが大きいです」
女子プロレス団体の控室は、当然ながら女子選手ばかりだ。母親になったレスラー仲間が子供を連れてきても煙たがることはないし、試合中は誰かが子供を見ていればいい。そういう空気が業界に出来上がっている。子育ては女性だけの役目ではないから、これから男子選手の“子連れ出場”だって増えるかもしれない。