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ママ友から「どんな仕事してるの?」産後4カ月でまさかの実戦…“寿引退”を選ばなかった藤本つかさが語る「プロレス引退の唯一の基準」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byL)本人提供、R)Norihiro Hashimoto
posted2024/06/01 17:00
第1子の出産を経て、期間限定復帰中の藤本つかさ
産後4カ月でまさかのプロレス復帰
昨年3月に娘を出産。「母親であるという事実が、自分をめちゃくちゃ強くしますね」と言う。
「目を離したら死ぬかもしれない生き物が横にいるんですから。自分がしっかりするしかないんですよね。生まれた時は2768g。大きいほうではないし、とにかく赤ちゃんって“ふにゃふにゃ”で」
プロレスに戻りたいという気持ちは一旦、消えていた。しかし7月には1日限定復帰することになる。
「産後4カ月でした(笑)」
舞台は故郷である宮城県利府町での凱旋大会。前年に続いての開催だった。
「私はトークショーだけの予定だったんですけど、県外からもファンの方たちが来てくれる中で“トークだけでいいのかな”と」
出産した時は「死にかけて、かろうじて生きていた」というくらい体のダメージがあった。ただ回復も早かったという。
「里帰り出産だったおかげで、身の回りのことを全部、母がやってくれたんですよ。凄く恵まれてました」
赤ちゃんを抱っこしながらのスクワットなど筋トレを再開。道場に行き受身を取ってみて「なんとかいける」という感触を得た。とはいえうまくできなかった時に後輩に見られたくない。だから最初は朝早くの“コソ練”だった。
「できないところを後輩に見られるのは嫌ですねぇ。休業中とはいえ、そこはプライドで。同期なら大丈夫なので、家でハム子さんにブリッジを見てもらったり(笑)」
「優勝しないと思われてるのかなって」
7月の試合はエキシビションではなく公式戦。11月にもサプライズ出場があった。今年3月からは、アイスリボンの新運営会社で“職場復帰”し広報部長に。そして4月のリング復帰も決まる。予定よりも早い復帰で、期間限定だ。
「休んだり戻ったりを繰り返すのではなくて、プライベートでやりたいことを全部やってから試合に戻ろうと思ってたんです。でもそうはいかなくなって」
ライバルであり親友、タッグチーム「ベストフレンズ」を組む中島安里紗(SEAdLINNNG)が8月で引退することになったのだ。藤本の期間限定復帰は、中島の引退ロードを伴走するためだった。
中島と一緒に自分も引退しようか。そんな気持ちになることもあったそうだ。だが、それも予定外の出来事が打ち消すことになる。シングル王者の星いぶきが妊娠により休業。エース候補の松下楓歩、団体の大黒柱を自任するトトロさつきはケガで欠場に。いぶきに関してはめでたい話なのだが、リングから主力が3人いなくなったのは事実だ。その分、藤本の役目も大きくなる。
急きょ、いぶきのタイトル返上に伴う新王者決定リーグ戦に出場することになった。松下の代打という形だ。
「まったく予定してなかったことです。楓歩とシングルマッチがしたかったのに、まさか代役になるなんて。どういう気持ちでリーグ戦に臨めばいいのか分からなかったですね。私が優勝してチャンピオンになっても、期間限定復帰だからベルトは返上ですよ。“じゃあもう一回リーグ戦やるの?”って。
そういう私をリーグ戦に入れるってことは、優勝しないと思われてるのかなって。そうなると燃えてきましたね(笑)。やるからには優勝。それはプロレスラーとして当然の感覚です」