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「代表にはなれなかったけど…」“補欠を辞退しなかった”杉原愛子のプライド…記者が見たパリ五輪“涙の落選”までの舞台裏「自分は体操が大好き」
posted2024/05/28 18:03
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Getty Images
4月の全日本個人総合選手権、5月のNHK杯と、2カ月間、計4試合にわたって繰り広げられてきた体操のパリ五輪代表選考会が終了した。
日本の女子史上3人目となる五輪3大会出場を目指して第一線に復帰した杉原愛子(TRyAS)は、5枠の代表入りにあと0.19433点という僅差でパリ五輪の代表入りを逃し、「代表になれなかったのは本当に悔しい」と大粒の涙。しかし、「自分が今まで練習してきたことを出し切れて、最高の演技をできた」と涙で濡らした頬に笑みを浮かべて言った。「オリンピックでのみんなの良い演技をみてほしい」と代表メンバーに寄せた言葉は爽やかでもあった。
杉原の演技に見えた“プライド”
すべてが決まるNHK杯2日目の試合は激戦となった。それまでの3試合の合計で5位スタートとなっていた杉原の演技は、代表の座を掴み取るんだという気概に溢れていた。
1種目目の跳馬では「ユルチェンコ1回半ひねり」を跳び、個人総合4枠での代表入りを競う上位勢の中では14.300点の宮田笙子、岸里奈に続く3番目の13.800点をマーク。幸先の良い滑り出しを見せた。
ところが、2種目目の段違い平行棒が鬼門となった。NHK杯1日目に落下した手放し技「イェーガー」に入る前の車輪でつま先を下バーにぶつけるミス。「イェーガー」はどうにか成功させたがその直後の移動技で落下し、一瞬、呆然と宙を見つめた。落下は1.0の大減点となり、11.066点。結果的にこのミスが命運を分けた。
しかし、その後も杉原は気持ちを切らすことがなかった。続く3種目目の平均台は、「スギハラ」の名がつくE難度の技(足持ち2回ターン)を持つ種目。「スギハラ」はこのところ封印しているが、得意とする種目でしっかりと気持ちを切り替えたように見えるキビキビとした演技を披露し、全体2位の13.666点。
最大の見せ場である最後のゆかでは、手拍子を求めて会場を一体化するエンタテインメント性も発揮して全体1位となる13.366点をマークした。合計点で5位となって個人総合での代表入りにわずか届かず、貢献度でも届かなかったが、五輪2度出場のプライドを最後まで貫いたハイレベルな演技に万雷の拍手が降り注いだ。
躊躇なく答えた「(補欠として)自分の役割を果たしたい」
22年に一度、現役に「一区切り」(杉原)をつけた。その後はコーチや審判として体操競技に携わっていたが、テレビのリポーターとして昨年秋の「杭州アジア大会」を現地で見た時に再び競技への思いがわき上がった。
昨年11月、パリ五輪出場を目指して復帰することを宣言。ただし、第一線を離れていた1年あまりの間も週3回程度の練習を続けていたとはいえ、4種目を通して競うための体力の不安は決して小さいものではなく、杉原も昨年末の時点で「一番の課題は体力面」と話していた。
しかも、パリ五輪の最終選考会となる今回のNHK杯は、1日4演技で成績を決めた16年リオデジャネイロ五輪、21年東京五輪と異なり、2日8演技での戦いだった。所属チームの練習拠点を持たない杉原が体力面をいかに取り戻せているかが選考のカギを握ると考えられた。それだけに、最後の最後までつばぜり合いを演じた戦いぶりは感動的でもあった。
だが、胸を揺さぶられるような思いをもたらしたのは演技だけではなかった。選考会のすべての日程を終え、代表選手5人が出そろった後の取材エリアでは、今後について聞かれて躊躇なくこう答えた。