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《ノーノー達成》巨人・戸郷翔征(24)はなぜ“ドラフト6位”の低評価だった? 日本代表を圧倒も…関係者「あんなフォーム、怖くていじれない」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2024/05/29 06:00
阪神戦で史上89人目となるノーヒットノーランを達成した巨人の戸郷翔征。その活躍とは裏腹に、高校時代のドラフトでは決して高評価ではなかった
投げるボールにも、打者と向き合う内面にも「キバ」があった。このピッチャーが使えなくて、誰が使えるのか。自信があったから、事あるごとに、スカウトの方たちに評価を訊いていた。
「面白いタイプですけど、アーム投げ(※腕を曲げずに投げる投げ方の俗称。一般的には故障のリスクが大きいと言われてきた)でしょ……あずかった人(コーチ)が苦労するだけ」
「うーん……ブン投げですからねぇ。コントロールがねぇ」
その宮崎では、「ブン投げ」のわりには、両サイドにふた通りのラインが作れて、「大丈夫かな」と思っていた右打者の頭方向へ抜けるボールも1つか2つ。それでもプロで前例のないタイプだったせいか、スカウトたちの反応は煮え切らなかった。
ちなみに私は、毎年独自に行っているドラフトシミュレーション『ひとりドラフト』で、聖心ウルスラ高・戸郷翔征投手を「巨人3位」で指名したことを内心、自慢に思っている。
独特のフォームゆえか…ドラフトでは高評価ならず
その秋、本番のドラフトで、その巨人から6位に指名された戸郷翔征。
「私、見たことないんですけど、戸郷って、どうなんですか?」
大学野球の取材に出かけた地方の球場で、巨人のあるスカウトの方から、そう問われたことがある。やはり、心配されていたのは、その「ブン投げフォーム」だった。
「今年の高校生でいちばん打ちにくい投手だと思います」
そんな答え方をしたと思う。腕の振りの角度は違うが、戸郷投手のボールの怖さ、打ちにくさには「中日・浅尾拓也投手(※現・中日コーチ)」のそれが重なっていた。
一瞬遅れる腕の振り、勝手に激しく動くクセの強い球質、迫って来る怖さとスピード。大学時代の浅尾拓也投手の全力投球を何度も受けていた私には、戸郷投手の「威力」が疑似実感として伝わっていた。
延岡市の郊外、聖心ウルスラ高の野球部グラウンドは、山間の小高い場所にある。そこへ向かう長い山道……ここを走り込んで鍛えた下半身だから、あの「ブン投げフォーム」でもバランスを作れた。現場に行って、納得したことがある。