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オリンピックへの道BACK NUMBER
「絶対にやりなさいとは言わない」食事制限、体重管理もナシ…大学の指導者に転身した体操・寺本明日香(28歳)の今「すごく癒されるんです」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTadashi Hosoda
posted2024/06/06 11:01
体操女子日本代表として長く活躍し、現在は至学館大学の女子監督を務める寺本明日香
「私が今自分で動いてできるのって、体操に少しでも興味のある子どもたち、親御さんたちを増やすことだと思うんですね。1回やったからっていきなり増えるわけじゃないので、しっかり継続するのと、似たような大会を他でもやっているところがあるので、そういったところと協力もしたい。また、例えば村上茉愛は茉愛のフィールドで、杉原(愛子)は今は現役に戻っているけれど、動画配信などをやっていると聞いたので、それぞれがそれぞれの分野で活躍することで体操が広がっていくと思います」
指導者の立場になり、普及など体操界に貢献する。それらの活動の事実だけをとれば、引退したあとも体操の世界で生きているように思える。
でも寺本は言う。
「結局は体操に戻ってきたんですよね」
打ち明けた“体操への拒否反応”「熱が出てしまう感じで…」
戻ってきた、とは何を表しているのか。寺本は続ける。
「引退してから半年ぐらいは体育館にも一切行かなかったし、体操の試合を見たらほんとうに熱が出てしまうような感じだったんですよ。4月に行われた全日本選手権の前も胃が痛くて何も食べられなかったり。オリンピックに行けるか行けないかのレベルの子たちを見るのが、今はまだ私にとってはしんどくて、自身の心が追いついていないです」
その中でも、少しずつ気持ちに変化があった。その契機となったのは、至学館大学で教えている日々だ。
「ずっと体操に拒否反応がありましたけど、この子たちを見ているからすごく楽しいって思えるんです。楽しそうに体操をやっているし、失敗してもそこまで落ち込まずに、悔しいからまた練習する、という感じで。私は失敗したら人生が終わるような感覚でやっていたから、そうじゃない子たちを見ているとすごく癒されるんですね。『体操ってこうでいいんだ』みたいな。失敗してもいいし、自分が納得いくレベルでできていれば全然OKで。だから体操ってこんなに楽な気持ちで見られるんだ、という環境が私にとって今は居心地がいいんです」