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「天性のアイドル力を持っている」美術学生→新人女子プロレスラーに…中野たむも絶賛する玖麗さやかのポテンシャル「応援したくなるんですよ」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2024/05/19 11:01
2023年12月25日にデビューしたスターダムの新人女子レスラー・玖麗さやか
タイトルマッチ調印式の会場でインタビューした時には、こんなふうに話している。4月16日のことだ。
「今はまっすぐ闘いたいです。技術やパワーでは敵わなくても、諦めない気持ち、折れない心が伝われば」
「いろんな人に言われて、それが悔しくて…」
だが4月27日、横浜BUNTAIでのビッグマッチでチャンピオンの吏南に挑む姿は“気持ち”だけではなかった。エルボー、ドロップキックという基本技を中心にしつつ、コーナーを蹴ってのカッターという新技を用意してもいた。結果としては完敗。しかし玖麗自身は“どこまで粘れるか”といった次元で闘ってはいなかった。
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「試合が始まる前はずっと緊張していて、途中で何もできなくなったらどうしようと思ってました。でも始まったら会場の大きさとかタイトルマッチとか関係なくなって、目の前の相手に勝ちたいというだけで。凄く興奮してる自分がいました。
挑戦が決まってからは、どんな技を出せば勝てるんだろうと考えました。自分の一番の弱点はスタミナなので走り込みをしたり。挑戦表明してから“まだ自力勝利もしてないのにベルトがほしいのか”といろんな人に言われて、それが悔しくて。でもそれは事実なので、結果で見返すしかないと思ってました」
新人は新人らしく、結果を気にせず伸び伸びやればいい。優しいファンはそう言ってくれるのだが、玖麗はそれでは満足できないと言う。
「勝ちたいという気持ちがどんどん強くなってるんです。ガムシャラに一生懸命やるだけじゃ勝てないのも分かりました。まだ新人だからと言われても、勝負である以上は勝たないと。新人だっていつか勝つ時がくる。それを1日でも早く、と。負けてもいいやと思って臨む試合なんて、見ていても面白いはずがないですよね」
試合ごとに、“プロレスラー”になっていく
インタビューでは、学んできた油絵とプロレスの共通点についても聞いてみた。玖麗は明確な答えを持っていた。
「絵は自分を表現するものだと思ってます。自分と向き合って、内面から出てくるものをキャンバスに乗せるんです。プロレスも同じで、自分と向き合って出てきた内面をリングで解放する。表現としてよく似てますね。
自分をさらけ出さずに、小手先の技術で“上手いっぽい表現”をしても、見る人が見ればバレてしまう。やっていて思うのは、自分を解放してさらけ出すのが気持ちいいというか、生きてる感じがします」
試合ごとに、あるいはプレッシャーのかかる場面を経験するたびに、彼女は“プロレスラー”になっていく。今の玖麗を見ていて何より楽しいのはそこだ。自分をさらけ出し、なおかつ“結果”も意識し始めて、成長はより早まるだろう。そして初の自力勝利を掴んだ時、その“アイドル力”も爆発するのではないか。