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ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
「バイクとかパクってええけど、ちゃんと返せよ」辰吉丈一郎の“ナゾの教え”に「アカンやろ」…次男・寿以輝が明かす“辰吉家の超ポジティブ教育”
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byTakuya Sugiyama/Number Web
posted2024/05/12 11:10
プロボクサーとして無敗のキャリアを歩む辰吉寿以輝(27歳/写真右)。“超ポジティブ”な辰吉家の教えや、父・丈一郎との関係について語ってくれた
丈一郎が2人の息子にボクシングをすすめたことはない。基本的には子どもの好きなようにさせる。それが辰吉家の教育方針だった。
「これしたらアカン、あれしたらアカン、というのはなかったですね。悪くもない子を殴るとか、いじめるとか、変なことせんかったらええよって。オカンなんか『どうせ泥棒になるんやったら石川五右衛門くらいになれ。やるなら何億円とかや。それができんなら泥棒なんてするな』みたいな感じです(笑)。親父からは『バイクとかパクってええけど、ちゃんと返せよ』って、謎の訳わからんことを教わりました。いや、アカンやろと(笑)。親が変わりすぎてて、まともになったのかもしれないですね」
家族を何よりも大切にする辰吉家の哲学
小学校のとき、大阪帝拳などのジムに行って練習をすることはあったが、試合をしたことはなかった。本格的にプロを目指して練習を始めたのは中学校を卒業してから。いまは父親が息子を指導する“親子鷹”が目立つが、辰吉家は息子をジムに任せた。
とはいえプロボクサー、ましてや元世界王者とくれば、息子にいろいろと口を出したくなるものだ。ところが、寿以輝が父に教わったことは「ないことはないけど、ないに等しい」。自分からアドバイスを求めることも「全然ない」のだという。
「たまにボソボソ言ってきますよ。ただ、右から左に聞き流してます。聞きたくないというより、やっぱり親子なんで、元世界チャンピオンの辰吉丈一郎ではなく、親父の小言みたいになるんですよ。親父がトレーナーだったら真剣に聞きますけど、僕にとってはただの親父ですから」
こう書くと、寿以輝が父親を遠ざけているように感じるかもしれないが、「日常的にボクシングの話はしないけど、親子としてはめっちゃ仲いいですよ」というのが辰吉父子だ。丈一郎は現役時代、試合でも、練習でも、可能な限り家族を連れて行動し、東京で仕事があっても、最終便に間に合えば、家族の待つ大阪に必ず帰ってきた。結婚して二児の父親になった寿以輝はいまも両親の家の近くに住み、家族間の行き来は頻繁だ。