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メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
「やばいっす、めっちゃ話しかけてくる!」松井裕樹はなぜパドレスで人気者に? 心を掴んだ“史上最高の入団スピーチ”「彼はすごく耳がいい」
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byGetty Images
posted2024/04/26 11:02
練習したスピーチでパドレスのチームメイトやファンの心を掴んだ松井裕樹
スピーチの反響は想像以上だった。SNS上でのパドレスファンの盛り上がりは言うに及ばず、コーチや球団広報からも「サンディエゴに帰ったらメキシコ系のファンに大歓迎されるぞ」と声をかけられたという。
仕掛け人のサカモトは「めちゃくちゃハードルが上がってしまったみたいです」と嬉しそうに微笑んだ。
「松井選手から『やばいっす! 英語でもスペイン語でもめっちゃ話しかけてくる!』って連絡がきて(笑)。でも、そのおかげで『マジで勉強しなきゃ!』とすごくやる気になってくれている。逃げ道がなくなったので、教える側としてはシメシメです。最初はスペイン語にあまりピンときていなかったみたいなんですけど、いざ現地に着いたら『スペイン語、絶対やります!』と言っていましたね。本当に素直なんですよ」
素直で好奇心旺盛、そしてフラット――松井の人柄を、サカモトはそんなふうに形容した。著名なアスリートとして特別視されることを好まない松井にとって、新天地のアメリカは居心地がいい空間のようだ。
「パドレスの投手陣とレストランに行ったときに、個室でなく他のお客さんと同じフロアの一角で、上座・下座とか関係なくベテランも若手も適当に座って、写真を撮るときも近くの学生グループに普通にお願いして撮ってもらったと、嬉しそうに話してくれました。誰もが人としてフラットに接してくれる感じがすごくいい、と。それを心地いいと感じられるのがステキというか、『根がまっとうな人なんだな』と感じましたね」
スポーツの専門用語は重要ではない
漫画『ONE PIECE』をこよなく愛する松井(推しキャラはシャーロット・カタクリ)に対して、「悪魔の実」の能力にたとえて前置詞の機能を説明するなど、サカモトのレッスンは遊び心に満ちている。対象がアスリートなだけに、「競技に即したテクニカルタームを重点的に教えているのでは」といったイメージもあるが、実際のところはどうなのだろうか。
サカモトは「最初は自分もそういった表現を知らなければいけないのかな、と思っていた」と前置きしつつ、語学を教えるうえで専門用語は必ずしも重要ではないと語った。
「サッカーにせよ野球にせよ、スポーツの競技面にかかわる言葉は選手たちが自分で対応しています。そこを教えてほしい、と求められることもない。集中してピッチやグラウンドで過ごしていれば、そういった用語を覚えられない人はいないので。ちょっと下品なスラングにしても、“教えたがり”の人がどの国のどのチームにも絶対いますからね(笑)。自分がやらなければいけないのは、むしろそれ以外の部分。基本的な文法や表現をちゃんと理解して使えるように、ごくまっとうに英語やスペイン語を教えることが大事なんです」