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ソフトバンク伝説的エース「高級車でなく地下鉄通勤」の今…“四軍監督”斉藤和巳が明かす「レベルと環境…一軍との差」「8時間バス移動も」
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byJIJI PRESS
posted2024/04/11 11:02
現役時代の斉藤和巳。数々の投手タイトルに加えて通算勝率.775を誇り「負けないエース」と呼ばれた
目の前の勝利はもちろんのこと、未来の「柱」となるような投手を心身ともに育て上げてくれるに違いない。多くのファンはそれを期待したし、斉藤自身もあらゆるプランを思い描いていた。しかし、時が進むにつれて歯車がかみ合わなくなり、シーズンの勝負所に差し掛かる7月には12連敗を喫して優勝戦線から脱落。シーズン最終盤には「あと1勝」の試合をことごとく落としてしまい、レギュラーシーズンは3位、クライマックスシリーズはファーストステージ敗退という結果に終わった。
昨シーズン終了後の“打診”
シーズン終了直後に球団から四軍監督への配置転換のオファーがあった際、引き受けるべきか迷ったという。
「数日ください、とお願いしました」
迷いの正体は四軍という場所が恥ずかしいとか嫌だったということではなかった。
「四軍が、まったくイメージできなかったから」
指導者はそこが何軍であれ、選手の人生を預かる立場にある。何も分からない中で組織を束ねるポジションに就いていいのか――。あるいは四軍監督の仕事のイメージが湧いてしまえば「違った選択をしたかもしれない」という。
ただ、周囲の人たちに相談するなかで「イメージできてないからこそ、やってみたら?」と言われた。そのひと言に妙に納得させられた。
「自分は野球教室でチビッコに『チャレンジせんと何も得られんぞ』と言うてるくせに。その言葉が引っ掛かった時点で心は決まってました」
12球団唯一の「四軍監督」
果たして迎えた2024年。
キャンプインの2月1日、斉藤は新しい背番号の入ったユニフォームに袖を通した。
現役時代の背番号は66。どうしても、今もその印象が強い。昨年の一軍投手コーチでは71を背負い、斉藤本人も周りも「違和感がある」と最初は苦笑いしていた。昨季の1年間でやっと見慣れたところだったのに、四軍監督になると背番号がまた変わったのである。
今季の背番号は「011」。
ソフトバンクは球界唯一の四軍制を敷く巨大組織。監督やコーチだけで総勢34名となる。支配下選手の上限は70名。つまり99番までの背番号では収まり切れないため、四軍首脳陣は3桁背番号をつけることになっているのだ。