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プロ野球PRESSBACK NUMBER
オープン戦最下位でも…“今年で勇退”のOB会長・川藤幸三が目を細める理由「あの時に思ったわ。お、岡田変わったな、と」指揮官に重ねる名将の面影
posted2024/03/26 11:02
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
Kiichi Matsumoto
川藤幸三は一度座ると動かない。阪神の試合前練習が始まると、ベンチの最前列にどっかりと腰を下ろす。目の前に立つ記者で視界が遮られても、席を替えない。
「同じところに座って、同じ角度でずっと見続けとったら、変化が出てくる。ずーっと甲子園で見続けておるほど面白いものはないんや」
「カワさん」と慕われる74歳の好々爺は60年近くタイガースに寄り添ってきた。昨年、38年ぶりの日本一を掴んだ。カワさんの目には、指揮を執る岡田彰布監督はどのように映ったのだろうか。
「お、岡田、変わったな」
「点点点がやな、一本の線になるようにしたわけだろ。だから、優勝は岡田の力もあるわな」
岡田はともに1985年の日本一を成し遂げたチームメートで、気心知れた間柄である。昨季、印象的な場面があったという。
「ワシがちょっと感心したなあと思うのはファンの力をうまいこと使ったなと。日本シリーズで湯浅を使った。あの時に思ったわ。『お、岡田、変わったな』と。あの時、選手だけで雰囲気を変えようとするのは限度がある。湯浅を使って、ファンがブワーッと沸いた。あれで雰囲気がガラッと変わった。ああいうことって、指揮を執る中でむちゃくちゃ必要やないか」
11月1日、カワさんは秋が深まる夜の甲子園にいた。日本シリーズの第4戦。2勝1敗のオリックスが同点の8回、2安打で攻め立てていた。追いつめられた岡田は継投策で防戦に出る。島本浩也を投入し、2死一、三塁の場面で中川圭太を迎えると湯浅京己に託した。それまで日本シリーズはメンバー外だったため、湯浅のベンチ入りを知らないファンも多かったのだろう。球場のボルテージが異様なほど高まるなか、湯浅はわずか1球で中川圭を抑えた。