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「日本一になれる」慶応高校を甲子園優勝に導いた“学生コーチの構想力”「打たないことには勝ち抜けません」「フランクに話せる人間関係は重要ですね」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2024/04/02 17:02
慶應義塾高校野球部の学生コーチを務める(写真左から)松平康稔、松浦廉、片山朝陽
「とにかく打たないことには神奈川も、甲子園も勝ち抜けません」
慶応の野手陣は、次のように構想された。片山コーチは、こう話す。
「ファースト延末、セカンド大村、ショート八木は確実にアウトを取れるので、不動の3人でした。延末は野球IQが高く、機転も利くタイプで、僕も信頼していました。大村はリーダーシップがあり、八木のフィールディングは全国でもトップレベルでした」
「メジャー」と「マイナー」の二重構造
逆にポジションの競争が激しいのは三塁、そして外野だった。コーチたちが話し合い、森林監督に提案し、最終的には監督が判断する。松浦コーチはいう。
「慶応は『メジャー』と『マイナー』という二層構造になっています。コンバートを選手に伝える場合、メジャーのレギュラークラスだと、森林さんがその意図を直接伝えます。マイナーの選手の場合は、僕たちから話すことが多いですかね」
打撃を評価されてコンバートされたのは、丸田湊斗、加藤右悟、福井直睦といった面々である。もともと丸田は遊撃手、加藤は捕手、福井は投手だった。
実際、秋季県大会の横浜との決勝戦ではレフト加藤、センター丸田、ライト福井という布陣で臨んでいる。しかし、関東大会では加藤と福井をポジションチェンジ。両翼の「最適解」を求めて学生コーチ陣が知恵を絞っていることがうかがえる。
最終的に夏の甲子園では、福井がサードに回り、レフトに打撃面で飛躍的な成長を見せた渡邉千之亮、センターの丸田は固定、そしてライトは加藤という布陣に落ち着いた。
では、実際の守備位置についてはどんな戦略を採っているのだろうか? プロ野球、メジャーリーグではデータをもとに位置を変えていくが、高校野球にもこの「波」が来ているのではないかと思ったからだ。すると、松浦コーチは「そんなことはないですよ」と否定した。
「高校野球のデータは、平均値を出せるほどサンプル数が多くないんです。プルヒッターという傾向が見られたとしても、それは相手投手の球速がそこまで速くないからです。ウチのピッチャーが出ていくと、そこまで引っ張れないので、反対方向に打球が飛んでいきます。慶応としては、打球方向はそこまで重視せず、セオリー重視で守ります。むしろ、球場の特性の方が大きいです」
“メジャー”で投げられる投手を増やす
慶応高校が練習する日吉台球場、夏の神奈川県大会決勝が行われる横浜スタジアム、そして甲子園球場。それぞれの球場には特性があり、外野フェンスの位置によって戦略は変わってくる。甲子園は、どうか?