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「日本一になれる」慶応高校を甲子園優勝に導いた“学生コーチの構想力”「打たないことには勝ち抜けません」「フランクに話せる人間関係は重要ですね」
 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byYuki Suenaga

posted2024/04/02 17:02

「日本一になれる」慶応高校を甲子園優勝に導いた“学生コーチの構想力”「打たないことには勝ち抜けません」「フランクに話せる人間関係は重要ですね」<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

慶應義塾高校野球部の学生コーチを務める(写真左から)松平康稔、松浦廉、片山朝陽

 ・打てるチームである
 ・小宅(雅己・当時1年)を筆頭に、複数の投手陣を構築できる
 ・プレーに関わることが多い一塁(延末藍太)、二塁(大村昊澄)、遊撃(八木陽)の守備は手堅い

 片山コーチは手ごたえを感じていた。

「優勝した世代は入学してきた時から能力の高さは際立っていましたが、守備にしても、打撃にしても、まだまだ成長の余地が残されていました。そして日本一になるための課題が浮き彫りになったのが、センバツの仙台育英戦でした」

仙台育英との「点差以上に大きな“差”」

 2023年3月21日、慶応は前年夏の優勝校、仙台育英と対戦した。13時57分に始まった試合は鈍色の空の下、重たい展開となる。0対1で迎えた9回表に慶応は同点に追いつくが、タイブレークの末に慶応は1対2で敗れた。

 松浦コーチはこの試合をこう振り返る。

「点差こそ1点でしたが、それ以上に大きな差があることに気づきました。仙台育英の投手陣、仁田(陽翔・立正大進学)君、高橋(煌稀・早稲田大進学)君、湯田(統真・明治大進学)君、3人の140キロを超える外角ストレートをまったく打てませんでしたから」

 センバツが終わって、コーチ陣は『打てるゾーンを広げていく』という課題に取り組むことを選手たちに提案した。ところが、すべてがうまくは行かない。松浦コーチによれば、打撃に「粗さ」が目立つようになってしまったという。

「難しい球に対して、ゾーンを広げて積極的にバットを振っていく。春季大会前の練習試合ではある意味、野放しにしていたんです。その期間、たしかに個々の能力は向上したんですが、今度はチームバッティングが出来なくなって(笑)」

 松浦コーチの実感として、「高校生はどう自分が気持ちよく練習するか?」に傾きがちだという。その弱点を修正に向かわせるのが学生コーチの腕の見せどころだ。

「高校生にはバランス感覚を持たせることが大切かなと思ってます。強くスイングすることと、状況に応じたバッティングを意識すること、この両立がなかなかできません。自分が苦手とする練習に取り組んでもらうためにも、フランクに話せる人間関係の構築は重要ですね」

 コーチ陣も忌憚のない意見を交わす。もともと高校時代は同じグラウンドで練習を重ねた「同胞」でもあり、風通しが良い。

「とにかく打たないことには、勝ち抜けません」

 コーチたちはチーム能力の最大化を図るうえで、コンバートについても意見を交わした。片山、松浦両コーチは守備担当ではあるが、チームの生態系、打撃のことを念頭に置きながら学生コーチ間で戦略を話し合う。甲子園の優勝メンバーは、ハッキリと打撃力を重視して構想されたものだった。松浦コーチはいう。

【次ページ】 「メジャー」と「マイナー」の二重構造

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