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甲子園の風BACK NUMBER
「あんな経験は誰にもしてほしくない」東海大会で準優勝→センバツ落選の“不可解選考”から2年…静岡・聖隷クリストファー野球部主将のいま
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakeshi Shimizu
posted2024/03/26 06:01
2年前、東海大会で準優勝しながらまさかのセンバツ落選を経験した聖隷クリストファー高の主将だった弓達寛之。現在は強豪・武蔵大野球部の2年生
この試合、毎日新聞は『聖隷クリストファーの逆転劇は、精緻な走塁練習のたまものだ』というタイトルで伝え、以下のような本文がある(※●部分は実名)。
《走者を置いたノックで何度も挟撃を想定し、練習してきた。(三塁ランナーの)●選手は「追って来る選手の体やグラブの位置をよく見るようになった」と話す》
とらえようによっては守備隊形をみながら走塁妨害を狙っていた、とも読み取れる。選考委員が高校野球らしくないと落選理由にしてもおかしくない。
「三塁ランナーが故意に走塁妨害を……」
そこまで言いかけると、弓達は苦笑いしながら反応した。
「あれ、逆なんです。主体は守備の挟殺プレーの練習で、ランナーとぶつからないように注意しようという練習なんです。ホームインした選手は練習の意図を理解していましたが、いつもやってる練習で運よく得点して興奮もしていた。コメントがダメでした。悪くとられる結果になった」
主将らしく落ち着いて当時のことを、そう、振り返った。
高校野球で「個人の力量」は評価基準に成り得るか?
そして最後に、自分が考える高校野球の本質についてこう話した。
「僕らの時の選考理由に、『個人の力量に勝る方を選んだ』というのがありました。でも、それって高校野球に当てはまりますかね。チームスポーツって、どんな競技でも個人の力じゃ勝てない。チーム全体の力で勝つんですよ。
日々の練習って極端な言い方をすれば、ホームランを数多く打つためにやってない。三振を多くとるためにやってない。チームで勝つためにやってる。だからこそ、勝ったチームが強い、という評価でいいと思うんですが。それだけは選考委員の方にわかってほしい。今後、あんな経験は誰にもしてもらいたくないです」
高校生は悔しかったんだ、とあらためて思う。そして2年分、大人になって、次の少年たちへの優しさが生まれていた。
「僕もこれからは野球を楽しみたい」と弓達は思っている。