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甲子園の風BACK NUMBER
「納得できるか」「納得しないといけないと思います」センバツ選出《不可解選考》問題から2年…聖隷クリストファー主将が振り返る“悪夢の瞬間”
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byKYODO
posted2024/03/26 06:00
2022年、東海大会で準優勝しながら春のセンバツ選考で落選し、上村敏正監督のもとに集まる聖隷クリストファーの選手たち
選考から数日たった週末、筆者はグラウンドを再訪して上村監督と話した。ただ、それは原稿にしない個人的な会話で終わった。弓達ら選手とは接することができなかった。まだ動揺が収まらないであろう高校生への監督の心配りがもちろん、あった。
2時間ほどの練習は行われたがやはり、元気はなかったし、遠州の空っ風の冷たさは半端なかった記憶がある。
あれから2年が経って、弓達はこの4月から首都大学リーグの武蔵大学野球部の2年生になっていた。短髪ではなくなって、体格もガッチリして大学生らしくなっていた。
まずは、あの日のことから尋ねた。
「なんでも、聞いてください」というと弓達は記憶を掘り起こすように話し出した。
日大三島との東海大会の決勝は3-6。実力に大差があると言われる敗戦でもない。選ばれると信じ切っていた、という。
「自分たちはグラウンドで練習をしていて、“選ばれました”と(上村)先生が出てくるのを待っていました。ザワザワしてるな、とは思いました。遅いな、とかトラブルかな、とか」
「選ばれなかったという事です」…頭が真っ白に
上村監督が出てきて選手みんなを集めて、話しだすのだが、その一連の流れは覚えていないという。
「頭、真っ白だったんで。先生の第一声は『電話が来なかった』と言ったと思います。『選ばれなかったという事です』という言葉だったと思います」
当時の新聞報道では、上村監督は「夏に向けてしっかりやろう」と選手に言ったという。
「先生は『夏に出よう』と言ってくれて、それから、練習の続きをしようとなったんですよ。でも、練習も力が入らず、ひどかったです(笑)」
今から思うと、よく練習ができたなと苦笑いする。
「気持ちが揺れてました。目的が消えて何をもって練習すればいいのか。全国優勝を狙っているわけではないですが、甲子園に出ると名前が知られて、あとのチーム力も上がっていくじゃないですか。やっとその一歩が踏み出せると。そう、思ってたんですけど」
さすがに翌日の練習は休みだったという。センバツのためにそれまで、休日返上で練習を続けていた。雨の日も重なって5日間ほど休みが続いた。
いつも練習が終わると、監督とキャプテンは1対1で話すのだという。
「その日は、先生のショックがわかりました。『納得できるか』と最初に言われました。納得はできないですが、主将という立場もあって、『納得しないといけないと思います』と言ったと思います」
「ほんとにそうなのか」と上村監督はさらに、そう言葉をつづけた。「個人的には納得いってないです」と弓達は返した。
「普段は私情は一切なしで話してましたが、この時の1対1は一個人として初めて話した気がします」